4-16 確認

「フィン、しっかりしろ、フィン!」ドラ子ねーちゃんの声がする。

「〝フィン〟なんて呼ばせてんの? ウケるね」と、二番の声がする。

「フィン君、がんばって!」と、先生が回復魔法キュアをかけてくれてる。

「テメェ、うちの最強メンバーだろ。最強が負けてんじゃねぇよ」

 無茶苦茶言うなぁ、ねーちゃん。

「ねーちゃん、あいつは……」と言いながら、なんとか体を起こす。「オレの同類」

「わかってる。会ったことあるし」

「え?」

「よぅ、。元気だったか」

 ジン? 二番が捜索に出たときの偽名か。

「元気ではあったよ、さん。僕の本当の名前は〝二番〟っていうんだ」

「んな名前あるか」

「実際そうなんだからしょうがないだろ」

「秘密の組織っぽさを演出してんじゃねぇ。テメェはジンでいいんだよ」

「相変わらず、いい性格してるね」と言いながら、二番は土球ガイアを生成した。

「ねーちゃん、気をつけて。そいつの土球ガイアはどこからでも出る」

「……尻からもか?」

 二番は大いにウケて「出せるよ。キミのお尻からもね」と言い、本当にねーちゃんの尻あたりに土球ガイアを出した。

「ねーちゃん!」とオレは叫んだ。

 当のねーちゃんは振り向きもせず、かかとで土球ガイアを蹴り砕いた。

「このスケベ野郎が」

「やるねぇ」

離し撃ちディスタントだろ? 普通の魔法だって手から離れて出てる。そいつをテメェは離して出せるってわけだ」

「知ってたんだ。結構マニアックな射法だと思ってたけど」

「マニアックっつーか、世間じゃ都市伝説扱いだけどな。けど、実在する技術なのはわかってた。あたしは離し撃ちディスタントの召喚で生まれたんだ」

「そうそう、正解」

「じゃなきゃがすぐそばにいねぇってのはおかしいもんな」

「そこまでわかってるなら、にも気づいてるんじゃないの?」

「予想はしてる。けど、確認が必要だ」

「うーん、惜しいな。やっぱり君は九番の娘だ。すごく冴えてる。でも、甘さまで似ちゃったね」

「なにが言いたい」

「どうして知恵の樹マヤウェルと会ってこなかったの?」

「……」

 オレにはわかる。エバンスにーちゃんのためだ。

「ドラ子!」と、ここでにーちゃんが現れた。間がいいっていうか悪いっていうか。

「いくら大昔からあるっていっても、普通の樹があそこまで大きくなるわけがない。知恵の樹マヤウェルは君と同じ、植物系の魔物だよ。そして彼女は、言葉を知ってる。知覚の優れた人間が何人か声を聴いてるんだ。それで〝知恵の樹〟って呼ばれてるわけだね」

 ペラペラ喋ってんのは、にーちゃんに聞かせてんのか。

「君は、知恵の樹マヤウェルと会えば、がわかったんだ。言葉が扱える生物なら能力の対象だろ? ああ、そうそう。なんで僕たちが君の能力を知ってるかっていうと、一番っていう九番の相談相手がいてね、そいつが九番を裏切ったんだ。元はと言えば九番が裏切り者なんだけど」

「あー、そのへんの裏事情はいいよ。そんなことだろうと思ってたから」

「ドラ子、どういうことだ……?」と、にーちゃん。「知恵の樹マヤウェルのこと、お前、気づいてたのか?」

「……ああ」

「僕らとやり合うには」と、二番。「最低限、知恵の樹マヤウェルから古代魔法を教わってこなきゃならなかった。君は視界に入った宝箱を開けずにここまで来ちゃったんだ」

「わかってんだよ、そんなことは」と言ってから、ドラ子ねーちゃんはエバンスにーちゃんのほうを向いた。「古代魔法の復活があたしの使命の一つだってことには気づいてた。けどあたしは、読む記憶を選べない」

「キース教の教義が正しいかどうか」と、にーちゃん。「キース神なんていう創造主が本当にいたかどうか、確認できちまうってことだな」

「そうだ」

「……」

「それを確かめることは、お前にとっていいことじゃないと、あたしは思ったんだ」

「……隠してたのか、

「……エバンス、あたしは」

「ドラ子、俺を信じてくれ。お前が危惧してるような変化は起きない。だいいち、キース神なんてものが本当にいたわけないじゃんか。今から引き返して、知恵の樹マヤウェルに会いに行こう。どうせ古代魔法は必要なんだろ?」

 そうは言うけど、にーちゃん、表情がおかしい。危ないものが漲ってる。答えが出たら、絶対になにかが起こる。

「話がまとまりかけてるところ悪いけど」と、二番。「行かせないよ。君たちはここで消える」

「どうして? さっきのイケメン二人組は、引き返すならそれでいいって言ってたのに!」と、先生が素朴なことを言った。

「僕らは秘密の組織なんだ。近づく者は消す。当たり前だろ?」

 二番がすっと片手を上げると、オレたちの頭上に、全員を押し潰せるぐらいの巨大な土球ガイアが現れた。

「冥途の土産に――って、言いたくなるもんだね。教えてあげるよ、魔物の正体」

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