4-12 新技

 レオンと同じだ。

 冒険者を引退して、一文字シングル。珍しいことじゃない。

 だから、驚くようなことじゃないし、話すことはなにもない。

 一気に行こう。

 装填リロー……

「!?」

 背中に衝撃。

 もう手乗り兵団ミニオンズを出してあったのか。

「うぐ……!」

 いや、なんだ、このダメージ? とても手乗り兵ミニオンの攻撃とは……

「飽きた」と、、アルベルトの声がした。

 振り向くと、そこにいるのは確かにアルベルトだった。

 が、前にもアルベルトはいる。つまり、二人いる。

 腐っても、やっぱり、長年の仲間だった。「飽きた」というのは、「手乗り兵団ミニオンズを使った戦術の研究はもう飽きた」という意味だと、俺にはすぐわかった。

 で、この魔法は……

「育つ」と、アルベルト(前方)が言った。

 分身召喚サーバント

 難しい魔法じゃない。むしろ召喚魔法としては基礎だ。ものほど簡単に出せる。

 手乗り兵団ミニオンズは、どんなに上手く運用しても、個体の強さは変わらない。それに比べて分身召喚サーバントは、自分の肉体を鍛えれば、召喚した個体も強くなる。


 だったら、なんだ?


 俺だって新しい力を手に入れたんだ。

 キース教の信者に負けるわけにはいかない。

 装填リロード開始。

 前後のアルベルトが素早くつっかけてくる。

 かかったな。こんな近い間合いでなんかするかよ。

 装填リロード中断。

 透明化トランスペア――走り込みの時に必要にかられて覚えた――で挟撃される位置から抜け出して、解除。

 召喚で対抗してやる――出でよ竪琴の人魚セイレーン

 子守歌は、俺には効かない。

 分身は消えて、眠りに落ちたアルベルトの本体だけが残る。

 そのはずだった。

 竪琴の人魚セイレーンは歌い始める前に、三体目のアルベルトが撃った正拳突きで、あえなく消え去った。

 さらに、四体目のアルベルトが現れ、「全部」と言った。

 その意味は、きっと素人でもわかるだろう。「これで全部」だ。

 無意味なネタばらしだけれど、疑う余地はない。ウソをつく奴ではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る