4-11 連携

 混乱した先生を目覚まし槌ウェイクアップハンマーで殴り続ける。

「ふくらはぎの~……むくみ!」

 ごんっ。

「二の腕の~……たるみ!」

 ごんっ。

 なかなか治らない。

 けどまだこういうアホな症状で助かった。フラフラしながらを羅列してるだけ。味方を攻撃してくるタイプより全然いい。

「腐女子!」

 ごんっ。

 そろそろ治ってくれねぇかな。リョーマが行動不能スタンから回復しそうなんだけど……

「私は大量の薄い本を所持していることをここに宣……!」

 げんっ。

「待って! ちょ、待、ドラ子ちゃん! 私もう治ってる!」

「あ、そうなのかよ。まぎらわしいカミングアウトやめてくれよ」

「なんか慣性で出ちゃったの! もう大丈ぶっ?!」

 シンの起き上がりざまの後方回転蹴りオーバーヘッドキックは、先生を殴って回避させた。

 あぶねぇ。こいつ、とっくに気がついてやがった。すぐ気絶したから逆に大した影響を受けなかったのか?

 リョーマも動けそうな気配。連携コンビネーションが始まると厄介だ。速攻でシンこいつを……

「リョーマさん!」

「おう!」

 シンが蹴りのモーションに入る。間合いが遠い。飛び込み系の技か。なら、浮いたとこを狙う。

 と、シンが足を振った。

「!?」

 混乱してんのか? と、いぶかりながら風球ゲイルを発射。

 その瞬間、シンのタカゲタの歯が、伸びた。

 チーズか。っていうぐらい、ぐいーんと伸びて、その先端をリョーマがナイスキャッチ。歯はすぐに縮んで、二人は無事、連携コンビネーションが発動できるポジションを取り戻した。

 当然、あたしの風球ゲイルは当たらなかった。

「あのゲタ、カミーニョの樹で出来てたのね」と、先生。「高級品のはずよ。意外な経済力ね。ますますいい物件だわ!」

「……」

 適切なツッコミが思いつかないのは、動揺してるせいだろう。

 あたしが知ってるあいつらはだ。中途半端な情報がチラついて判断が鈍る。装備も技もずっと同じなわけねぇってのに。

 くそ、〝消す〟機能はついてねぇのか、この能力は。

「来るわ!」と、先生が鞭を構えた。

 シンが片足をたたみ、水平になったタカゲタの歯にふわりとリョーマが乗る。そして、シンがその足を押し出す。

 居合い抜きの構えのリョーマが高速で迫ってきた。

 上に跳んで迎撃――しようとしたはずが、リョーマはあたしと同じ高さにいた。

 凡ミスだ。シンが足を上げただけじゃねぇか。こんなことにも気づかねぇなんて。

「安心せい。ただの痺れ粉じゃ」

 刃にまぶしてんのか。斬りつける前に言うかそれ。

 けど、無理だ。この体勢じゃかわせねぇ。迎撃しても粉は食らう。

 リョーマが鯉口を切った。その時、「小手ぇぇぇ!」先生の鞭が下からリョーマの小手を打った。うまい。

 リョーマは手のダメージに構わず刀を振り抜いた。

 着地して、よろめく。

 直撃はまぬがれたけど、少し粉を吸った。

「大丈夫? ドラ子ちゃん」

「ああ、助かった」

 リョーマは「ふーむ、やるのう」と言いながら、刀身にポンポンと粉をまぶしている。

「リョーマさん、手ぇ大丈夫ですか?」

「おぅ、軽いミミズ腫れじゃ」

 一年前の能力ステータスなら、二人合わせてもあたしの敵じゃなかった。

 成長。そして、協力。

 若干ピンチだなと思いながら、人間っていいもんだなと、あたしはのん気なことを考えていた。

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