4-10 土球

 変化トランスで再び人型になったドラ子は、目覚まし槌ウェイクアップハンマー――〝睡眠〟だけでなく精神系の状態異常全般に有効――を出しながら、「あたしは先生を治してから追いかける。エバンスとフィンは先に行って、残りの警備を蹴散らせ」と言った。

「了解」と、フィンと俺は声を揃えた。

「め、め、め……めじりの小じわ!」

「……」

 少し心配だけれど、リョーマとシンの距離はだいぶ離してあって、シンのほうは怪音波をモロに食らっている。ドラ子もいるし、まず負けはないだろう。

「ほー、ほー、ほうれいせん!」

 先生の奇声を背中で聞きながら、俺とフィンは谷に向かって走り出した。


「なんで装填リロード使わなかったの?」と、走りながらフィンが訊いてきた。

「なんでって……別に、必要なかっただろ」

「殺しちゃえば追われなくて済むのに」

「むやみに殺したくない」

 禁呪を使えば一撃で死なせてしまう恐れがあった。

「魔物は平気で殺せるのに?」

 これは……子供らしい質問、なのか?

 それとも、フィンはもしかして、の存在なのか?

 俺が黙っていると、「まぁ、自分と同じ種族は殺したくないか、誰でも」と、フィンは自己解決した。

〝家族〟が死んだ時は、悲しかった。

 サラたちが〝仲間〟だった頃、絶対に死なせたくないと思っていた。

 リョーマたちは恩のある〝知り合い〟だ。

〝他人〟でもやはり死なせたくはない。ノートンの仲間の遺体を見て、胸が痛んだ。

 じゃあ、人間なら誰でも、死なないでほしい?

「殺したい奴とかいないの?」と、絶好のタイミングでフィンが言った。こいつ、俺と物事の考え方は似ているのかもしれない。

「……」

 キース教の信者が相手なら、きっと俺は、殺す気で戦うだろう。

 その話はまた今度な、と言いかけた時、フィンが「伏せて!」と叫んだ。

 斜め上空からが猛スピードで飛んできて、伏せた俺たちの頭上を通過し、背後の地面に墜落して砕け散った。

 土球ガイアだ。

 有効な対象は、雷系の魔物と、人間。

 風・火・水・雷・土の五系統の中で、加護プロテクション効果が最も高い。

 フィンが崖の上、土球ガイアの出どころを見上げて、「あいつはオレが引き受けるわ。にーちゃんは前の奴を頼む」と言った。

 前?

 見ると、確かに前方にも人影があった。

 フィンは俺の返事を待たず、「神々の遊びランドメイク」足元の地面を突き上げて一気に上昇していった。

 土球ガイア系、使えたのか……お前もきっと「なんでもアリ系」の強さなんだろうな……と、感心している場合じゃない。

 前の人影の正体は――長すぎる前髪、陰鬱なオーラ。

「アルベルト、か……?」

 確信を持てなかったのは、体つきが以前とはまるで違っていたからだ。

 ヲタク顔のマッチョ。作画が崩壊していると俺は思った。

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