3-19 拷問
「あーん♡」
「ふざけでねぇでさっさと喰え。で、とっとと吐きやがれ」
「え、喰うの? 吐くの? どっち?」
「
このクソガキを捕獲して一週間、未だに
まったく、どうなってんだ? あたしが魔力の補給なしで
「おねーさん、オレ、甘いものが食べたいなぁ」
「テメェ、自分の立場わかってんのか」
「わかってるって。オレを味方にしたいんでしょ?」
そう。だから拷問なんかしないで、魔力が切れるのを待ってる。
ジン(仮称)の話が本当なら、こいつらはあたしの味方にもなり得る立場のはずだ。
「味方になってほしいならお願い聞いてよ~」
「うるせぇ! まだ味方にしてやると決めたわけじゃねぇからな」
「強がっちゃって」と、クソガキは口元に笑みを浮かべた。「本当は拷問するのが怖いんでしょ?」
クソガキめ。「ああそうだよ。つーか、趣味じゃねぇ」
「悪いけどオレの魔力は尽きないよ。そろそろ覚悟決めたほうがいいんじゃないの?」
「なんだテメェ、自ら拷問をご所望か?」
「おねーさんにならされてみたいなー」
「Mぶってんじゃねぇよ。テメェ、ドSだろ? 喋ってりゃそんぐらいわかる」
「へへー、バレた?」と、クソガキは舌を出した。「でも、マジな話、焦んなくていいの? オレの仲間が来ちゃったらどうすんの?」
「こっちにゃ人質がいる」
「そんなもの通用しない相手かもよ?」
「そんなクズ野郎ならブッ潰すだけだ」
「……自信満々だね。オレらと真っ向勝負して勝てると思ってんの?」
「あいにくあたしは冒険者じゃねぇからな。勝てる勝てないで考えてねーんだよ」
「いいね、おねーさん。オレ、ファンになりそう」
「そこまで言うなら味方になれや」
「そう単純な話じゃないんだなぁ」
くそったれ、ナメやがって。
けど、このままじゃマズいのは確かだ。
そもそも、なんでこいつはあたしを尾行できた?
考えられる可能性は二つ。
①ジンがなんらかのウソをついてる。
②裏エビデンスが原因。
尾行が始まったタイミングからして、たぶん②だろう。
裏エビデンスは、並みの冒険者の
裏エビデンスに通信石みたいな機能があるとすれば、その組織が感知して、追っ手を差し向けることも可能だろう。
こいつはあたしが例の記憶を読むマンドラゴラだと見定めて追ってきたわけじゃない。脅威だと思って追いかけた相手がたまたまあたしだったんだ。だから最初はこいつ、あたしの正体に気付いてなかったはずだ。あたしが余計なこと色々言ったからもうとっくにバレてるだろうけど。
……自分の身の安全を考えるなら、この裏エビデンスはさっさと捨てちまうほうがいいんだろうな。
こいつを持ってる限り、クソガキの仲間はいずれここに辿り着く。のんびりとは構えてられない。
それはそれで進展に期待できるんだけど、理想はやっぱりこのクソガキから情報を引き出すことだ。索敵特性保持者の不意打ちなんてラッキーパンチもいいとこだからな。
「根競べじゃなぁ」と、買い物から帰ってきたじいさんがのんきな声で言った。
「悪ぃな、じいさん。長々と居座っちまってよ」
「いや、わしは別に構わん。それより、差し出がましいようじゃが、その子はやはり
「そうだよぅ。助けて、おじーちゃーん」と、クソガキが甘えた声を出した。
「ほっほっほ、かわいいのう。離れて暮らす孫によう似とる」
おいじじい。嫁いなきゃ孫もいねーだろ。
「で、なんかいい資料は見つかったか?」
「いや、本日も収穫なしじゃ。やはり都会へ出んと見つからんかもしれん」と言って、じいさんはため息をついた。「この町も昔は学者がたんとおって、よく資料の貸し借りもしたもんじゃが。あの怒りんぼのソフィアちゃんは今頃どうしておるかのう」
じいさんが探してるのは、例の古い文献と同じ言語で書かれた書物だ。まだ解読されてない言語は、文例を大量に集めて、配列から推理するしかない。
抽出装置が完成すりゃ面白いことにはなりそうなんだが……
「ねぇおじーちゃん、ソフィアって誰?」
「ふふふ、わしの初恋の人ぢゃよ」
……ん?
このクソガキの魔力ってもしかして、すげえ大量にあるんじゃなくて、すげえスピードで回復してんじゃねぇか? だとすると、
「……」
試してみて損はない。
「じいさん、そこの樹借りるぜ」
「ん? なにをするんじゃ?」
「ぼちぼちこのクソガキを拷問する」
「なんと。魔力切れを待つのではなかったのか?」
「待ちくたびれちまってよ」
「かわいそうなことはせんとってくれ。わし、この子のことを本物の孫っぽく思い始めてるんじゃ」
おいおい……めんどくえーな。おじいさん口調なんか使ってっからだよ。
「心配すんな。ただ吊るすだけだから」
「吊るす?」
「ああ、空中にぶらーんとな」と言って、あたしはクソガキを見た。「どう? そういう拷問」
クソガキの微笑みに、一瞬、影が走った。どうやら
「じいさん、こいつが〝いい資料〟になるかもしれねぇぞ」
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