3-14 後輩
「なにって、セントナバルに行くとこですけど」
「ですけど?」
「え? あの、エバンス先輩ですよね?」
「……」
俺がドラ子だと勘違いしたのは、
人違いしたことを謝ったうえで、「お前、全然変わらないな」と俺は言った。
「どういう意味ですかそれ?」と、ピリカはこぼれ落ちそうな大きな目で俺を見てくる。うーむ、正直、くっそかわいい。
「褒めたつもりだけど」
「ならいいです」
ピリカは、自分がかわいいということをよくわかっているタイプの女子だ。臆面もなく活用している。根がさっぱりしているので、同性の友達も多かった。
「セントナバル、現地集合?」
「はい。準備万端です。見てくださいこれ、
「おお」
もちろん、弓にも長所はある。魔法の効きにくい敵や
「
彼女は交渉事もうまい。さらには回復系の魔法も得意。パーティーにいてくれたら非常に助かる存在だろう。
それにしても。「そっか。いよいよピリカたちに先越されるんだな」
「あー、まぁ、そうですね。まだこれからですけど」
「先輩たち、なんで解散しちゃったんですか?」
「……」
「私、先輩たちのパーティー、憧れてたんですよ。うちの学年でも同じように思ってた子多かったです」
そりゃレオン先輩のパーティーだからだろ、と、危うく声に出しそうになった。
俺が返答に窮しているのを見かねたのか、ピリカは「あ、そうだ先輩」と、話題を変えた。
「先輩は渚旅団のことどう思います?」
「え?」
「知らないわけじゃないですよね?」
「いや……」
「あれ、そんな感じ? 先輩、今までどこにいたんですか?」
「北の田舎のほう。一応、
「あー、なるほど。
統制とはまた、穏やかじゃないな。「……ナギサ旅団って、なんなの?」
「えー、そうですね。一言で言えば、空賊です」
ピリカの話によると――世界で唯一、機械式の飛空艇を持っている盗賊団。構成員数は不明。当初は富豪しか狙わない「義賊」だったが、最近は「富豪」の基準がだんだん下がってきて、中産階級も被害に遭っている――とのことだった。
その渚旅団とやらが我が家のマンドラゴラを盗んだ――と考えれば、合点がいく部分といかない部分がある。飛空艇があるなら三百株ものマンドラゴラを持ち去るのも容易いだろう。しかし、俺は間違っても「富豪」じゃないし、「中産階級」ですらない。基準下がりすぎだと思う。
「そういうわけで、世間じゃ評価が分かれてるんです。貧民の救済もしてますけど狙う基準が微妙だし」
「なるほど」
「どうなんですかね。最近、懸賞金の額が上がったんですけど、熱心な支持者もいるみたいで」
「そうなんだ。うーん、どれだけ義賊として活躍してるか知らないけど、俺はどっちかっていったら、支持しないほうかな」推定、被害者だし。
その時、「次はー、
俺は「あ、降ります!」と声を上げ、慌てて身支度を始めた。
「え、先輩、転職するんですか? なにに? てか、先輩の近況なにも聞けませんでした」
「またそのうち話すよ。ナバル島、がんばって」
「はい!」
馬車からの降り際、俺はピリカに「すぐ追い越すから」と言った。
ピリカは満面の笑顔で「そうはさせませんよ!」と言った。
信じがたいほどかわいかった。天使か? いや、天使だ。
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