3-13 銀龍

 例の行き止まり周辺では、あたしが調べた限り、隠し通路の類は見つからなかった。その代わり、ミミックの亡骸――ただの宝箱――から、山頂の石エビデンスによく似た石を見つけた。

 このミミックはトラップというより、ナバル島の影のボスだったんじゃねぇか? そう考えれば、行き止まりなのも合点がいく。

 試しに、このを頭上にかかげてみた。

「……」

 反応なし。けど、まさかただの記念品ってわけじゃないだろう。

 他の七大魔山セブンサミッツにもそれぞれ影のボスがいて、全部の裏エビデンスを集めればなにかが起こる――ってのは、いかにもありそうな話だ。

 ぬるいと思って見下してた七大魔山セブンサミッツだけど、についてはちょいと興味が湧いてきた。というわけであたしは、七大魔山セブンサミッツの研究機関に行ってみることにした。世間には公表されてない情報を握ってる人間がいるはずだ。


 セントナバルから乗合馬車でギボン平原のギボン飛行場へ。チケットを買って銀龍ルーンドラゴンに搭乗する。

「オディロン行き、出発致します。しっかりと背びれにおつかまりください」

 離陸。前ののアベックが「きゃー♡」とか言ってイチャつく。うん、よかったね。お幸せにな。二人とも浮気してるけど。

 隣の席になった鎧の戦士――常在戦場がポリシーとのこと――をチラ見すると、真っ青な顔をして、必死に背びれにしがみついていた。

 あたしの視線に気づいたのか、戦士は精一杯の威厳を込めたらしい声で、「ご婦人、銀龍ルーンドラゴンは初めてか?」と言った。

 いや、どう見てもそっちのほうが初めてっぽいだろ。あたしもだけどさ。

「ああ、こりゃ最高だな!」と、あたしなりに励ますつもりで答えた。

「そうだな! うむ、絶景絶景!」と、戦士は声を張り上げた。

 実際、眺めは最高だ。雲一つない快晴。銀龍ルーンドラゴンはセントナバル上空を越え、サティア海を東へ進む。眩しく光る海面で古代鯨ナーガクジラが潮を吹くのが見える。

 現在、世界に存在する銀龍ルーンドラゴンの飛行場は、ギボン・オディロン・ロウラン・ムムスクの四ヶ所。計十本の航路が全部生きてて、自由に行き来できる。キース教の勢力圏であるムムスクにも普通に行けるってのは、二十年前には考えられないことだった。

 ただ、まやかしの平和だと、あたしは思う。七大魔山セブンサミッツに気をそらされてるだけで、キース教と反キース教がわかり合ったわけじゃない。別々の宗教がわかり合うなんて無理かもしれないし、戦争よりはまやかしの平和のほうがずっとマシだろうけど。


 無事、オディロンに到着。

 戦士、地に足がつくのが嬉しいのか、鎧をガチャガチャ鳴らして地面を踏みしめながら、「ご婦人、これからどちらまで?」と訊いてきた。

「ガシェバだけど」

「おお、奇遇な。拙者もガシェバへ向かうところだ。差し支えなければ、共に参らぬか?」

 こいつの過去からして、ナンパのつもりは毛頭なく、本気でを心配してくれてるらしい。いい奴だ、モテないけど。

「いいぜ。じゃあ、景気づけに一杯やりながら歩かねぇか?」と、あたしは土産物屋を示した。

「うむ、名案だ!」と戦士は言った。

 適当な瓶詰めのワインを購入。

 数ある研究機関の中でもガシェバの研究所を選んだのは、ついでに六・一九の跡地をこの目で見てみようと思ったのと、この地方の「赤」がうまいって噂を聞いたからだ。

 乾杯して、ぐいっとラッパ飲み。うほっ、いい渋みしてんじゃねぇか。

「よろしくな、パトリック!」

「……拙者、まだ名を名乗っていなかったと思うが?」

「……な、なーに言ってんだよ! さっき聞いたぜあたし」

「むぅ、そうだったか……?」

 やべーやべー。あたし、酒入ると毎回やらかすな……

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