3-11 出生

 宝箱に擬態した魔物ミミックを真っ二つにブッタ斬って、体を休めてたあたしは、「五十点」という聞き慣れない声を耳にした。ませた少年ガキの声だ。

「? 誰だ? どこにいる? なんの点数だ?」

「質問は一つずつにしなよ」

「そっちがわざと謎だらけにしてんじゃねぇか」

「ごもっとも」と言って、なにもないところからあたしの目の前に現れたのは、ガラハドたちと一緒に山を下りたはずのジンだった。

「尾けてきてたのかよ。ってか、そんな声だったのか。あと、透明化トランスペアうめぇな」

「感想は一つずつにしなよ」

「で、五十点ってのは?」

「決め技の回転斬りは大した威力だった。でも、使ったあとでそんなに長時間行動不能スタンになるんじゃあ、リスクが大きすぎる。外したらどうするつもりだったんだい?」

「そん時ゃそん時だ」

「勇気と無謀は似て非なるものだよ。命は大事にしなきゃ」

「大事に使ったつもりだぜ、あたしは。少なくとも逃げ出すよりいい使い方だった」

「ふぅん」

 すげー違和感。男でも女でも驚きゃしなかったけど、まさか子供とは……

「で、テメェは何者なんだ?」

「何者だと思う?」

「いや、全然わかんねぇ」

「それは、記憶も含めて、でしょ?」

「! な……」

「僕の記憶が読めなくて驚いてたよね? うまく隠したつもりかもしれないけど、奴から見たらバレバレだよ」

「……じゃあ逆に、あたしがうまく演技すりゃ、奴らにもバレねぇってことか?」

「……いい質問だね。うん、その通り。を知ってる奴は何人かいる。でも、そいつらは君と会っただけでとわかるわけじゃない」

「そいつらは、あたしを探してる」

「正解」

「つーか、テメェもそいつらの仲間なんだよな?」

「同類ではあるけど仲間ではないね。最初に見つけたのが僕でよかったよ」

「あとの奴らは敵ってわけか」

「僕が味方だと思う?」

「敵ならあたしを始末するチャンスはいくらでもあっただろ」

じゃない。だよ。今だっていいんだ」

 おいおい、マジかよ。「やろうってのか?」

「ごめんごめん。僕は敵じゃない。ただ、味方とも言い切れない」

「どういう意味だよ」

「決めかねてるんだ。今のところどっちかって言えば味方寄りで、だから色々教えてあげてるんだけど、やっぱり消したほうがいいって今後思い直すかもしれない」

「んだよ、ハッキリしねーヤローだな」

「君の性格は好きだよ、とりあえず」

「そりゃどーも。できれば味方でいてほしいもんだね」

「そう言われると、味方でいたくなるね」

「なら、もう一つ教えてくれ。とあたしは、あたしがスノーホルムで生まれる前に、一度会ってるってことなのか?」だとすれば、簡単だ。初対面のはずなのに記憶が読めなければの可能性大ってことになる。

「いや、そういうわけじゃないよ」

 くそ、違うのかよ。

「その様子じゃ、やっぱり気づいてないんだね。一度会う以外に、記憶が読めなくなる条件」

「!」

「単純なことだよ。変化トランス系の魔法を使ってる相手の記憶は読めない」

 そういうことか……なるほどね。どうも妙だと思ったら、こいつ、変化トランスかけっぱなしでいやがったのか。

 ご苦労なこった。人のこと言えんけど。

「まぁ、君の追跡者たちは間違いなく変化トランスを使ってるはずだから、読めなかったら怪しいって考え方は間違いじゃない。でも、最近は修行とか美容目的でかけっぱなしにする人も多いから、一概には言えないね」

「だな」

「じゃ、僕はこれで。また会えるといいね」と言って、ジン(偽名だろうけど)はナバル島の山頂の石エビデンスを取り出した。

「あー、あのさ」

「なに?」

「悪いけどあたし、」自分の出生に興味ないわけじゃないけど。「誰かの思惑に振り回されるつもりねぇから」

「ああ、別にそれでいいと思うよ。でも君、なにかやりたいことでもあるの?」

「うーん、そうだな。一言で言うなら〝冒険〟ってことになるんだろうな」

「それならよかった」ジンは山頂の石エビデンスを頭上にかかげ、「利害は一致してる」という言葉を残して消えた。

 誰とだよ――と思いながら、あたしは立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る