3-10 習得
「本部、応答願います。――ニブル地区第三班伍長レオン、スノーホルムに到着。任務完了。――ええ、また空振りです」
背負った
奴は、確かに俺を見た。
そして、無視した。
もちろん俺もそうするつもりだったけれど。
「今後はこういうことのないように徹底していただかないと」と、通信を終えたレオンは、役場の受付嬢に向かって言った。
「申し訳ございません」
「こういった空振りのせいで他への救援が遅れることになるわけですから」
受付嬢に――じゃない。目をそらしたまま、明らかに俺に向けて言っている。
「
「いつも議題には上がっておりますけれど、なにぶん予算が……」
「そうですか。ではとにかく、民間人の保護を徹底していただくよう……」
「あの」と、マスターが割って入った。「この度はご迷惑をおかけしました。近々、私が
レオンはほんの一瞬、値踏みするような目でマスターを見た。
何様のつもりだ。その人はお前の元上官だぞ。
レオンはたちまち笑顔になって「それはよかった。歓迎します」と、マスターに握手を求めた。
俺が
レオンが
「手紙、読んだのか?」と、声がした。
ああ、読んだ。読んだよ。そのおかげで、俺は――
「……」
俺は返事をせず、歩き続けた。
背後で
解散後、レオンから届いた手紙には、奴なりの言い分が書いてあった。
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解散を取り消せとは言わない。けど、はっきり言って納得いかない。
冷静に考えてみてくれ。お前らしく、冷静に。
俺たち、そんなに悪いことしたか?
いや、俺たちは、悪いことをしたのか?
(中略)
いろんな考え方の人間がいるってことを、お前にはわかってほしい。
お前だってその中の一人に過ぎないんだ。
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俺の親父とお袋と姉貴が死んだ
実行犯はキース教過激派。
レオン・アルベルト・サラの三人がキース教の信者だと知ったのは、俺たちが
だいたいのパーティーは、
故郷での墓参りを終えた俺は、バザン市の
三日通って、成果はゼロだった。なにも撃たない俺を見て後輩たちは、さぞ難しい魔法の練習をしているんだろうと思っただろう。
なぜ撃てないのか。わからない。得手不得手は誰にでもあるというけれど、一応
実物のマッチが発火するところをもう何百回何千回と見ている。イメージ訓練が足りないわけじゃないはずだ。
どうして――と思いながら、大勢の人でにぎわう夕暮れの大通りを歩いている時、レオンとアルベルトとサラ、三人の姿が目に飛び込んできた。
三人は、キース教の教会から出てくるところだった。
最初にサラと目が合った。
混乱する頭で、ひとまずこの場は気づかなかったフリをして通りすぎようと考えながら、俺はやはり混乱していて、道のど真ん中で立ち尽くした。
俺が
レオンの家がキース教の家系だったことを、俺は知らなかった。
サラとアルベルトは、生まれてから
レオンに、俺を貶めようとか、孤立させようという意図があったわけじゃないらしい。純粋に布教をしたんだそうだ。俺を誘わず、そして俺に隠していたのは、言わずもがな、俺がキース教を憎んでいることは明白だったからだ。
教会前での鉢合わせから一週間後、
俺は先日の件には触れず、淡々と作戦を話した。
そうする以外、なにができる?
信仰は個人の自由だ。俺に咎めだてする権利はない。
話の切れ目で、「気分は悪いだろうと思う」と、レオンは言った。「けど、過激派の奴らとは一緒にしないでほしい。俺たちはただ本当のことを信じてるだけなんだ」
俺は「わかってる」とだけ言った。
信仰は、あくまでも、個人の自由だ。
けれど。
キースという唯一神が世界の創造主で、他の宗教は全部邪教だとする教義にも、それを心から信じているレオンにも、レオンにホイホイついていってコソコソ入信したサラとアルベルトにも、俺は、吐き気をもよおしていた。吐き気がずっとおさまらなかった。
レガリア山への
一見四人で力を合わせているようで、三人は俺とまったく別のところにいる。
根本的に、人間が違う。
もう無理だ――と悟った俺は、
――レオンからの手紙の最後には、こう書いてあった。
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追伸
キースは全能なり。
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俺は手紙を手にしたまま、語彙の限りを尽くして、この敵意を表現するのにもっともふさわしい言葉を探した。
死ね
消えろ
腐り果てろ
砕け散れ
破滅しろ
不幸にまみれろ
沈め
堕ちろ
本当に本当のこと知って脳天をカチ割られろ
崩れろ
這いつくばれ
潰れろ
失せろ
どれも違う。ありきたりだ。そんな言葉じゃ言い表せない。
そして俺は、
イラナイ
という言葉に辿り着いた。
今から消えるんじゃない。
最初から、存在しなくていい。
奴に関するすべてが、最初から、この世から。
この手紙も――と思った時、さっきまで手紙だったものは、俺の手の中で灰になっていた。
こうして俺は、
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