3-7 比較

「世話になったな。短い間だったけど楽しかった」

 ナバル島の山頂の石エビデンスを各自拾って、あたしはガラハドのパーティーに別れを告げた。

 サラは少し名残惜しそうな気配を見せつつも、引き止めるようなことはなにも言わなかった。

「一緒に降りないんですか?」と、ガラハド。

 山頂の石エビデンスを使えば、その山の麓までワープできる飛べるらしい。

「まだちょっと調べてみたいところがあってね」

「よろしければ、お付き合いしますが」

「あー……せっかくだけど」

「そうですか。……では、お元気で」

「そっちこそ」

「早くあなたに追いつけるように頑張りますよ」

 ガラハドという男の偉いところは、向上心を失わないところだ。もういい歳なのに、まだまだ自分を高めなきゃいけないと思ってる。と思ってる――とも言える。

 山頂の石エビデンスを天にかざした三人の姿が消えるのを見送って、あたしは七合目の洞窟へと引き返した。


 今回の挑戦アタックの前、ガラハドがまた時間をかけて慎重に準備してる間に、あたしは町の書店でナバル島の旅行記を買いあさった。

 攻略情報が知りたかったわけじゃない。旅行記同士を見比べるためだ。からじゃ細かいところまではわからない。

『ナバル島パーフェクトガイド』

『ナバル島のすべて』

『はじめてのナバル島』

『ナバル島の歩き方』

『七大魔山全書 第四巻』

『ナバル島にソロで行ってみた』

『マンガでわかるナバル島』

「お客さん、ずいぶん買うね」と、書店のオヤジはあたしのおっぱいをチラ見しながら言った。

 男ってのはなんでこんな邪魔な物体が好きなのかね。もっと小ぶりにしとくんだったぜ。動きにくいったらありゃしねぇ。

「うちのリーダーが慎重派でね」と、あたしはを言った。


 宿に戻って片っ端から読んでいく。

 思った通り、書いてあることはどれも似たり寄ったりだった。

 まず島に行きつくまでの航路に竪琴の人魚セイレーンが出るから、詩聖アイスキュロスの耳栓は必須(音波耐性があれば不要)。島内には海賊の下っ端パイレーツとか剣牙鰐サーベルゲートとか水系の魔物が多いので、雷属性の装備が有効。三合目から出現する溺死した海賊レイス・パイレーツは聖水をぶっかけりゃ一発。

 なんでこんなに何種類も旅行記が出てんだ? ――ってのが気になって集めてみたわけだけど、結局売れるから出てるってことなんだろうか。

 どの旅行記にも必ず地図がついてる。それぞれの地図を破り取って、床に並べてみた。

「……」

 やっぱりどれも同じだよな。間違ってたらクレームがつく。

 ん? 待てよ、あれは……あるぞ! 一ヶ所だけ、一致してない点。

 七合目の洞窟。麓から見て穿孔蟻ドリルアントの巣を越えた先に大広間みたいな空間がある。入ってきた道を除いて五本の通路がその広間から伸びてて、山頂につながってる道は左から二番目。一番左の道を行くとひたすらぐるぐる歩かされた挙句、一番右の道から戻ってくることになる。真ん中の道を行くと照鉄ミリガンの鉱床があって、ここでを掘ってく冒険者が多い。

 問題は右から二番目の道。

 発行が最も古い『七大魔山全書 第四巻』には、「罠あり・行き止まり」と書いてあった。

 ところが、『ナバル島パーフェクトガイド』以降の旅行記には、「行き止まり」としか書かれてない。

『ガイド』が書かれる頃、誰かが罠を破壊したのか? 七大魔山セブンサミッツの形状記憶力――なにしろボスでさえすぐ復活する――を考えるとその可能性は低い。

 旅行記の著者たちも、自分が取材する時は既刊の旅行記を参考にしたはずだ。たぶん『ガイド』の著者は、行ってもどうせ行き止まりなんだから調べる必要はないと判断したんだろう。

 以降の著者も同じだろう。「本当は自分の目でも確かめたほうがいいんだけど、みんな行き止まりだって言ってるしなー。つーか、たかが行き止まりだし、わざわざ時間と体力使って見に行くほどでもないよなー」ってわけだ。

 つまり、右から二番目の通路には、初期の著者以外、ほぼ誰も足を踏み入れてない。

 ふつう罠ってのは、広間の入り口とか通路の交差点みたいな、もっと掛かりやすいところに仕掛けるもんだ。? つまりそれはってことなんじゃないか?


 で、そろそろその地点だ。鬼が出るか蛇が出るか……

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