3-6 獄炎
村を出られない。
バイトが終わらない。
こいつら、不器用だ。いや、違う。俺の
昔、鍛冶屋で
本職の召喚士なら
客もじろじろ見てくる。
作戦を間違えただろうか? 練習すればすぐ上達するだろうと思っていた。
アルベルトが三十体もの手乗り兵を自在に操るのを見て、なんとなく、簡単にできそうな気がしていた。それはとんでもない勘違いだった。
俺でも、召喚することはできた。でも、出せただけだ。肝心の操作はなかなか思い通りにいかない。
アルベルトは――認めざるを得ない――ただの戦術マニアじゃなくて、なかなかの召喚士だったらしい。
「すいません」
「あ、すいません、いらっしゃいませ」
不意に客から声をかけられて、
くそ、また召喚からやり直しだ。でも店番も俺の仕事なんだからしょうがない。
応対を済ませて、詠唱。出でよ
うっ、二体しか出ない。魔力が切れてきたか。
二体でも、やれるだけやろう。さぁ働け。
ぷち……ぷち……ぷち……
「……」
遅い。
おっそい。
このペースじゃ一年かかっても終わらない。
やっぱり自分でやったほうがいいか?
「エバンス君はさ」と、また不意に声をかけられて、手乗り
ちくしょう。「何ですか店長」
「基本魔法の曲撃ちとか、苦手でしょ」
え? 「なんでわかるんですか?」
「召喚士でもないのに召喚できてるってことは、
「……」おっしゃる通り。
「いい練習だと思うわよ、それ。
「そう……なんですか」
オオカミの
「でも、さすがに時間がかかりすぎるので、もうやめようかと」
「続けたほうがいいわ。うちとしては別に急がないから」
「でも……」
こっちは急いでいる。
それに、俺は
「年寄りの言うことだと思って馬鹿にしてるのかい?」と、オオカミが言った。
「いえ、そういうわけでは」
店長、怒りの沸点低くないですか?
その時、店の外から鐘の音が聞こえてきた。
間隔の短いこの打ち方――
俺は店を飛び出しかけて立ち止まり、「ちょっと行ってきます」と言った。
店長は「はい、行っといで」と言った。
場所はすぐにわかった。
凄まじい熱気の中、燃える民家を背景に立っているのは、一つの胴体に首が二つの
寒い地方に出る魔物ではない。というのは、考えてみれば
外から入ってきたのか? それともここに出現したのか? いや、そんなことはどっちでもいい。とにかく倒さないと。
ランクはA。確か
まだ向こうは俺を敵対者と認識していない。今のうちに……あれ、
「エバンスさん?」と、背後から現れたのは、黄色い帽子の受付嬢だった。
「あ、どうも」
「なにをしているんですか?」
「まぁ、その、あいつを……」討伐しようかと、と言いかけたのを、受付嬢に遮られた。
「あなたには権限がありません。ただちに避難してください」
「……
「現在要請中です」
「すぐに、来るんですか?」
「緊急案件として可及的速やかに処理されるはずです」
「放っといたらどんどん家燃やされますよ」
「規則ですから」
「そんなこと言ってるじゃないでしょう」
「討伐をなさりたいなら、なぜ
「……違反金なら払いますから」と言って、俺は
「エバンスさん!」という受付嬢の鋭く咎める声で、
邪魔しないでくれよ――と思う間もなく、
「くそ……!」
受付嬢を突き飛ばそうとして、手が虚空を押した。よろめいた結果、
「早く避難を!」と、右の樹上から受付嬢の声。
その身のこなしに驚いているうちに、
必殺、虚を突かれて固まってるフリからの、
うなりを上げる尻尾を、俺は横に転がってかわす。
尻尾の豪打を受けて、地面から火の粉が舞い上がる。
もう一発、
当たらない。
もう一発……それより早く
水蒸気がほとばしって、
まずい。どこだ?
こういう時はたいてい背後――と、俺が振り返るより先に、背中に鋭い痛みが走った。
熱っ! 痛いというより熱、いや、やっぱり痛い。爪にやられた。
「……」
強い。
旅行記の推奨する対処法は、
やっぱりドラ子の言う通りだ。山の外じゃまるで通用しない。この勝負、全然互角なんかじゃなかった。
もっと魔法の
せめて丸腰じゃなければ……いや、武器があったところで同じだろう。
背中の灼けつく痛みを感じながら、俺はレオンのことを思い出す。
あいつならきっと、この
レオンは典型的な武闘派だった。メインの武器は両手剣・槍・斧。体術も得意。魔法は
性格は明るく、雄弁で、行動的。自信家で、女にモテる。あらゆる面でアルベルトと対照的だったけれど、二人は決して仲が悪いわけではなかった。
物理攻撃力にかけては、パーティーの中ではもちろん、
レオンの力は、特に
陣形戦では本来、
そのことを注意した時、レオンは「じゃあ誰が攻撃すんだよ」と言った。
確かに、その通りではある。俺の魔法やアルベルトの
うちのパーティーは、一応は
レオンとしては、それで一丸となっているつもりのようだった。「背中は預けた」という表現をよく使った。
けれど、個人の物理攻撃力だけでは、行けるところには限界がある。俺たちはもっと
とは言っても、レオンの突撃以上に強力な攻撃手段がないのも事実。まず俺自身がもっと強くならなければ……
……そんなものは言い訳だ。リーダーはレオンじゃなくて俺なんだから、俺が陣形で戦いたいなら、レオンをきちんと諫めなきゃならなかった。
俺もサラもアルベルトも、いわゆる大人しいほうだ。意見が食い違った時、負けん気の強いレオンに逆らえる人間はいなかった。
戦闘能力より、性格で、負けていたんだ。
それでも傍目にはいいパーティーに見えていただろうけれど。
……もう負けてたまるか。
攻撃手段になるんだ、俺が。
回想のおかげで一つ気づけた。俺は今、
水の波動が俺を中心に全方位に広がっていく。これなら逃げ場はないはず。
よし、とらえた。と思った瞬間、
「……」
威力が低くても、弱点属性が当たりさえすればなんとかなると思っていた。どうして俺はこう見通しが甘いんだろうな。
この口内を狙えば……いや、無理だ。さっきので魔力を使い果たした。
赤熱した牙に俺の喉笛は食いちぎられ、なかった。
終わったと思った瞬間、なにかの力が
「お怪我は……ありますねぇ」と、
呆然としている俺に、マスターは左手で
すげえ、
でも、
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