3-5 陣形

 海賊の狙撃手ガンズ・パイレーツが肩に担いだ大砲をブッ放してきた。

 大楯を持ったガラハドが前に出ようとするのを「オーライ!」の声で止める。

 両手に水属性付与ブルーウェポンをかけて、重心をやや引きながら――おっけ、ナイスキャッチ!

 このまま投げ返……おっと、そこまではしないんだった。

 あたしが砲弾をポイ捨てしたのと同時に、ジンの雷球トレノ海賊の狙撃手ガンズ・パイレーツに向かって飛ぶ。

 雷球トレノは紙一重でかわされた。が、その回避先でガラハドはすでに槍斧ハルバードを構えている。

 薙ぎ払い一閃。海賊の狙撃手ガンズ・パイレーツの首がぽーんと飛んで、残された肩から大砲がごとりと落ちた。

「回復を」とガラハド。

「はい!」とサラが返事をして、あたしの手に簡易回復魔法クイックキュアをかける。

「いらないんだけど」と、あたしは言わない。ほんのわずかなダメージでも逐一回復して、万全の体勢で次の戦闘に備えるのがガラハド流だ。もう慣れた。


 そんなこんなで、ナバル島の九合目を突破した。

 前衛一枚陣形ワントップフォーメーション。敵の攻撃を一人の前衛ブロッカーが防いで、後衛シューターが反撃する。

 前回はあたしと隊長ガラハド前衛二枚陣形ツートップだった。隊長は、あたしの力量を再評価して、自分を下げた。

「すみません、無理を言って」と、後ろからガラハドが言った。

「いやいや、これが一番理にかなってる」と、あたしは答えた。

「でも、攻撃をしないというのは、ストレスが溜まりませんか?」

 ナバル島はどうやらあたし一人でも登頂クリアできるっぽい。でも、あたしが一人で戦ったらメンバーに経験値が入らない。

 あたしが攻撃をしないっては、隊長の提案だけど、隊長が言わなきゃあたしから言うつもりだった。

「快適っつったらウソになるけど、もともと陣形戦の練習したいってのもあったからね」

「そうですか。でも、あなたなら単独ソロ七大魔山制覇コンプリートすらできそうですけど」

「まーね」たぶん、その気になりゃできる。

 実際、単独ソロ五番目ウルヌカス火山とか六番目エッダ山まで登頂クリアしてる奴も世界に何人かいるらしい。

 単独行にもメリットはある。鉄球モーニングスターとか渦潮メイルシュトロームみたいな、味方を巻き添えにしかねない武器や魔法を存分に使える。

「けど、実はあたし、組もうって約束してる奴がいてさ」正確には一方的に命令したんだけど。

「それって、ドーラさんの恋人?」と、サラが声を弾ませた。

「そういうんじゃねぇんだ。あたしの弟子」しかも、サラあんたんとこの元リーダーな。

「お弟子さんがいたんですか」と、ガラハド。

「ああ。出来の悪い奴なんだけど、そのぶん次会う時が楽しみでね」

 約束の日まで残り十ヶ月。エバンスあいつ、今どうしてるかな。

 手紙にはなにも書かなかったけど、自分に足りないものはなにか、突き詰めて考えればきっと気づく――いや、あいつは現役時代から薄々気づいてて、踏ん切りがつかなかっただけなんだ。あたしの読み通りなら、あいつは今で修行してるはず。

 ……少なくとも、もう村からは出てるよな? 自主練でなんとかなるようなことじゃねぇぞ。

 ん? あたし、なにか見落としてるような……。なんだろう? まぁいいか。

 今は目先の戦闘を楽しもう。

「おいでなすったぜ」

 山頂の墓標から、ナバル島のボス、幽霊船長キャプテン・ラカムの姿が現れた。

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