3-4 労働
いてて、くそ、また指刺した。
見た目より硬いんだよなこのトゲ……なんとかこれより楽に殻を剥く方法は……いや、ないか。魔法で攻撃したら中身がダメになる。万力の絶妙な力加減で割るしかない。で、万力を使うにはトゲを抜くしかない。
けど、このままじゃマズい。もう三日目なのにまだ一樽目の半分も終わっていない。
バイトで忙しかったから――なんて、
いって! くそ、まただ。
あれこれ考えるからダメなのか? こういう単純作業は無心でやったほうが速いかもしれない。
「……」
ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち。
ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち。
がちゃん。
きりきりきりきりきり……ぱきゃ。
よし、次。
ぷち、ぷち、ぷち……
「……」
多少、速い、か? 不毛だけど。
慣れればもっと速くなるかもしれない。でも、
ドラ
まさか夜逃げしてこいとは言わないよな? おばあさんの言う通り、ケジメはつけなきゃいけない。
「あら、あなたは確か……」
「あ、いらっしゃいませ」
現れたのは、先日お世話になった役場の受付嬢だった。やはり今日も黄色の帽子をかぶっている。
「
「ご覧の通り、店番です」
「畑は?」
「まぁ、ちょっと失敗したんです。ここに納品するはずだったので、その埋め合わせで」
「そうですか。それは大変でしたね」
役場で働いている時よりだいぶ雰囲気が柔らかい。仕事もそんな感じでやればいいのにと思うけれど……いや、大きなお世話だ。俺だって愛想には自信がない。
「
「老人会の旅行に行ってます」
「ああ、そうなんですか」
そうなんです。
店番もあるから、殻剥きだけに集中できない。今日だけじゃなく、店番は基本的に俺の仕事ということになっている。
さほど頻繁に客が来る店じゃないとは言え、変わった注文をする客が来たら、それだけでかなりの時間を取られる。
「今日は何をお求めで?」
「
「……」
「……ない、ということですよね」
「すいません」
この三日でもう何回謝っただろう。
いっそ店頭に「
「では、別件ですが、
「え?」
誘われてたっけ?
ああ、遠回しに誘われたことになるのか。
一般人の討伐禁止令。今後は
去年の歓迎会の時には「ようこそ勇者様」っていう横断幕が出ていた(※勇者ではない)。俺もついその気になって、いざって時はやってやろうと思っていた。
その結果が、あのザマだ。
「……」
それでも、俺が正式に
「まぁ、まだ考え中です」と、俺はお茶を濁した。
「そうですか」と、受付嬢は仕事の顔で言った。「『加入』といっても、さほど拘束されるものではないんです。最初に簡単な書類を出して、試験に合格していただければ、あとは今まで通りご自分のお仕事が続けられます。討伐の際にはきちんと報酬が支払われますし。ぜひご検討ください」
「はぁ……」正直、入る気はないんだけど。「書類というのは?」
「本当に簡単なものですよ。出身地とか、今までの職歴とか、ごく一般的な履歴書です」
「……」出身地ね。ま、そうだよな。
この人、俺が
役場の受付嬢が帰り、俺は作業を再開した。
ぷち、ぷち、ぷち……
「……」
今考えなきゃならないことは、この殻剥きを一日でも早く終わらせる方法。
でも、妙手があるか?
ウニグルミの殻剥き。なにかもっとうまいやり方があるなら、とっくに誰かが編み出しているだろう。こうするしかないから、結局このやり方が伝わっているんだ。
やり方はこれしかない。加速したければ、手を増やせばいい。
「……」
召喚魔法で、作業員を増やす。
わりと早い時点で考えてはいた。これならただのバイトがバイト兼修行になる。
最初のうち能率が落ちることは覚悟しよう。
召喚魔法は――実物をよく知っているほど容易になる。
アルベルトの
この状況を打破するために、俺は、あいつの魔法をパクる。
トゲ抜きの手を止めて、
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