2-9 逡巡
家までの坂道を登る。
ふと、折れた剣の柄に触れる。切っ先は捨ててきた。
サラが全員に
「行こう」
俺がささやくと、アルベルトの召喚した
続いてレオンが岩の上に立ち、
あらゆる飛竜は、尻尾のコントロールで全身のバランスを取っている。よって、始めに尻尾を斬るのが定石。対人格闘技ではまず
無事、回り込んだ。苔むした岩の玉を繋いだような尾が目の前で激しく揺れている。本体が飛び上がろうとする直前、尾が垂直に屹立するはずだ。玉の繋ぎ目を狙って水平に剣を振れば斬れるはず。
ふと、悪い考えがよぎった。いや、嘘だ。昨夜から何度も考えていた。
ここでわざと斬り損じれば、三人を窮地に追いやることができる――俺はこの時、彼らの「秘密」を知ったばかりだった。まだ引退の決断には至っていない。
もし彼らが戦闘不能になれば、俺も無事では済まないだろう。だがそんなことはどうでもいい。
「……」
――馬鹿なことを。そこまで憎いなら、決闘でも申し込め。今はまだ仲間だ。
「エバンス!」と、レオンの声。
「!」
しまった。もう尾が――間に合うか?
「くそっ!」
跳躍し、剣を払う。
鈍い音。弾かれた。
風を巻き起こしながら、
サラの
――わざとではなかった。いや、その逡巡に意識を奪われていたのだから、「わざと」に含まれるのかもしれない。
まずい、
「逃げるぞ!」
俺が叫んだ時、レオンは右手に輝くものを持ち、上体を大きく仰け反らせていた。
放たれた
「すまん」と俺が言うと、レオンは「当たるとは思わなかった」と笑った。
あいつは俺の迷いに気づいていたのだろうか? その答えは、今でもわからない。
家に帰り着いて、折れた剣を放り込んでおこうと、納屋の錠前に鍵を差し込んだ。
すると、鍵は、空いていた。
「……?」
出かける時、かけるのを忘れた?
いや、それはない。確かにかけた。
にわかに緊張しながら、戸を開く――と、そこには今までと変わらない納屋の光景があった。
今まで……正確には、マンドラゴラを収穫する前と。
「なぁ、ドラ子」
「おぅ」
「お前の姉妹たちはどこ行った?」
「さぁな」
「……」
「盗られたな」
いやいや、落ち着け。本当に「納屋」にしまっただろうか?
「……」
間違いない。ノートンにもここで売った。収穫したマンドラゴラ約三百株、確実にここにしまってあった。
サーっという音。これは……ああ、血の気が引く音か。
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