2-6 反省

 ドラ子を肩に乗せ、歩き出した。

 全身の傷が痛む。現役時代はずっとレナの加護プロテクションに頼っていたから、痛みというものに慣れていない。今どき加護プロテクションなしで戦う冒険者がいるとも思えないけれど。

 レナは……今頃どうしているだろう。俺の見る限り、四人の中で唯一レナだけが、へ行く可能性を持っていた。

「さっきの戦闘でお前が愚かだった点を時系列順に述べよ」と、だしぬけにドラ子が言った。

「なんだって?」

「ぼけっとすんじゃねえ。反省会だよ反省会」

「……そうだな。まず、準備が不十分だった」

「準備?」

「長槍の一本でも買っとくんだった」

 ドラ子は黙っている。不正解の予感。

 数歩の後、ドラ子が吐き出すように言った。

「だめだ、罵りの言葉が見つからねえ」

「そんなもん探してたのか」

「お前も身に覚えはあるだろ」

 ……ある。

「……過去がわかる、ってのは、考えたことも、なんだな」

「悪いな」

「一応、俺のは“罵り”とはちょっと違うつもりだが」

「似たようなもんだろ。それより、さっきはつい勢いで『立ち上がれ』とか言っちまったが、やっぱりやめといた方がいいかもしれねえ」

「俺、そんなにレベルの低いこと言ったか」

「だから、なんでAランクがDランク相手に武器新調しなきゃならなえんだよ!」

「耳元でわめかないでくれ」

「自慢の音波耐性はどうした」

「いや、あれは音を介した魔力が効かないって意味で……」

「格下相手に負けたのが装備のせい? 本気で言ってんのか?」

「時系列順にって言っただろ」

「時系列順にしたらそれが入るってことだろ、このクソヘタレヤローが。今の装備だって大袈裟すぎる。百羽蝙蝠ハンドバットぐらい全裸で倒せや」

 全裸って。

「次!」

「次?」

「次に愚かだった点を述べやがれコノヤロー」

 まずい。機嫌が悪くなりつつある。

「……大火球ラ・パイロ拡散型ショット

「そうだ」

 よかった。合ってた。

「せめて雷球トレノにすべきだったよな」

「クソが。ちげーし」

 しまった。補足するんじゃなかった。

「テメェは大雷球ラ・トレノ使えねえだろ。ただの雷球トレノ撃つぐらいなら大火球ラ・パイロでいい。問題は制御コントロールだ。あんなもん、やぶれかぶれでブッ放しただけじゃねえか。ちゃんと軌道イメージして撃てば、自分には当てねえでコウモリも何体か落とせた。テメェは落ち着いて撃ったつもりかもしれねえが、十分すぎるほどテンパってやがったんだよ」

「そうか」

「『そうか』じゃねえよ。いいか、テメェは基本的に冷静ぶってんのがよくねえ。だから自分がテンパってるかどうかの区別もつかねえんだ」

「――それ、いつだったか、レオンにも言われた」

「ああ、そうだったな」

「ところで、ダメ出しはありがたいんだが、そろそろ人目につく。透明化トランスペアかけて静かにしてくれ」

「だからテメェはそういう……」

「そういう、なんだ?」

「……なんでもねぇよ」

 ああ、最低だ。今の「なんだ?」は八つ当たりだ。レオンのことを思い出したのも、それでのも、ドラ子のせいではないのに。

 俺は立ち止まり、透明になったドラ子に言った。

「師匠、すいませんでした。帰ったら続きお願いします」

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