2-5 再起
岩の上から、
「お前、捕まってたんじゃ」
「んなドジ踏むわけねえだろ。テメェが一人でどれだけやれるか隠れて見てたんだよ」
「なるほどな。感想は?」
「あとで言うわ」
ほめられる気は微塵もしない。なにしろ俺自身が呆れ果てている。
「とりあえずこいつら片付けるぞ」と言って、ドラ子が
イモ状態のこいつが持つとでかい。体の五倍はある。もとい、本来は味方に使う状態回復魔法なのだが、鈍器としてお気に召したようだ。
「よく見とけ」
ドラ子が消え――いや、岩を蹴って飛んだのか。また
次の瞬間、
安堵の訪れと入れ違いに興奮が去り、アドレナリンの影に隠れていた痛みが襲ってきた。
「あたしがいなきゃ死んでたな」
と、ドラ子が冷たく言い放った。
その通りだ。決して大袈裟ではない。
一年のブランクでここまで衰えるとは思わなかった。
「一年のブランクでここまで衰えるとは思わなかった、とか思ってねえだろうな」
「え」
「ブランクもクソもねえ。いいか、はっきり言ってお前は〝冒険〟なんかしてなかったんだ。つーかほとんどの〝冒険者〟がそうだ。肩書きが独り歩きしてやがる。誰も〝冒険〟なんかしてねえ」
ドラ子の口調は今までになく真剣である。
「どこにどんな危険が潜んでて、どういう準備が必要で、どのルートを進むのが効率的か、親切丁寧に書いた旅行記が世界中に出回ってる。下調べって言やあ聞こえはいいが、要するに攻略本だろ。書いてある通りに冒険するって、それのどこが〝冒険〟なんだよ」
「そういうことは……俺も薄々、いや、常々思ってた。同じように思ってる奴もきっと少なくない」
「だろうな」
「……でも、使える情報を使わないのも不自然だと思わないか?」
「まあな。旅行記があるなら、そりゃ読むだろう。けど、読んでから行くなら〝冒険〟じゃねえ。思案する楽しみや発見の喜びがそこにあるか? 本当の意味で〝冒険者〟って呼べるのは、旅行記を書いた奴らだけだ」
知っているからといってできるとは限らない。例えば、
「お前、曲がりなりにも三山は
「……そうだな」
「立ち上がるなら今だぞ」
立ち上がる――って。
「いや、俺はもう」
「志した日を思い出せ。お前はもっと、息つく暇もない純粋な〝冒険〟を思い描いてたはずだろ。それがいつの間にか、賢明なセコいやり方で妥協するようになって、人間関係に振り回されやがって、まったく実につまんねぇ十年間を過ごしたよ。取り返したきゃ、今すぐ立て」
「……」
「
その言葉に、俺は涙ぐんでいたかもしれない――ドラ子があんな体勢でなければ。
「ドラ子は、立てるのか」
「は?」
「いや、そろそろ立てるのかな、と」
「なに言ってんだテメェ。どんな体勢で喋ろうがあたしの勝手だろ」
「……」
ぐったりと横たわっていたドラ子は、立ち上がり、よろめいた。
「んだよ。見んじゃねえよ」
あの回転攻撃のあとは目が回ってしばらく動けなくなる。今後、ドラ子と共に戦うことがあるなら、肝に銘じておくべきだろう。
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