2-3 奇襲
スノーホルムは山麓の村である。村全体が傾いている――経済的にどうかはさておき、少なくとも物理的に。
俺の家と畑は北のはずれ、村の中で最も高い位置にある。マンドラゴラの栽培は火薬の製造に似て、人里から十分に離れた場所で行うものなのだ。少々不便だが、見晴らしは素晴らしい。晴れた日には海の向こうに
家を出て、曲がりくねった長い坂道を下りていくと、雑貨屋がある。
店頭に
雪かきで苦労した去年の冬、金が入ったらぜひ買おうと思っていた。それなりに高級品で、当時は手が出なかった。
今なら買えなくもない。けれど、今は贅沢を控えるべき状況である。
左肩の上にほんの一瞬視線を送ると、「なんだよその目は」と、不満げな声が聞こえてきた。
雑貨屋から百歩ほど行ったところに広場がある。そもそも人家はまばらで空き地ならどこにでもあるのだけれど、傾斜がないのがここだけなのだ。
広場の周囲には
武器屋もある。俺は今、使い古しの
村役場に寄って、ひとこと言っておこうかとも思った。「退治する」と言いきっては恩着せがましいから、「様子を見てくる」とでも。しかし、結局黙って行くことにした。なによりもこの判断が以下略だった。
広場を通過し、針葉樹の雑木林に入る。ここを抜ければ
中ほどまで来たところで、「止まれ」と、左肩から声がした。
「なんだ?」
「……いや、訂正。走れ」
「なんなんだ?」
「いいから走れ!」と、見えないドラ子が叫んだ時、太陽を雲が遮ったのか、視界がさっと暗くなった。
この時、一瞬でも上を見上げる間があったら、どうなっていたかわからない。
駆け出した直後、背後で地響きが鳴った。
振り向くと、俺の身長の倍以上はある巨大な岩が地面に転がっていた。
太陽の光を遮ったのは雲ではなく、この岩だったようだ。
「嘘だろ……」
すべての疑問は一瞬で解けた。
目の前の巨岩が無数の
確かに岩にしては少し地響きが軽かったけれど、こいつら魔法なんか使えなかったはず……と、疑問を感じながら剣を抜いた。
「いてて」
剣を振り回す。が、当たらない。虚空だけがスパスパと斬れる。
落ち着け。噛まれてもいい。とにかく落ち着け。
剣を納め、両手で印を結ぶ。
〝
久々の大技、体が覚えていた。
炎の塊が炸裂して、自分自身火傷を負いながらも、ひとまず
そして俺は、いつの間にか左肩が軽くなっていることに気づいた。
「ドラ子?」
応答なし。
やばい――あいつ、さらわれた。
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