2-1 朝食
目玉焼きを焼きながら、
戸棚から買い置きの白パンを取り出す。ちょうどストックがなくなった。買いに行かなければ。
卵と野菜とパン。これが俺の毎朝の朝食だ。
目玉焼きを皿に移し、食後のコーヒーを淹れるために、同じ火で湯を沸かす。
タイシャン王国がブランクス共和国に対し、国交正常化十周年を記念して
何事だ?
振り返るとドラ子がいた。左手を腰に当て、右手に
姿は昨日の、つまり美女のままだが、髪はぼさぼさで、目がすわっている。
「テメェあたしになにしやがった」と、ドラ子が言った。地獄の底から響いてくるような低い声だった。
俺は手で後頭部を押さえながら言った。「いや、なにしたかって言えば、連れ帰って寝かせてやったわけだが……」
昨夜、
背中に柔らかいものが当たる……ということについて、なにも思わないわけではなかった。が、あくまでも正体は人面イモなのだということを、俺は決して忘れなかった。
「寝かせてやっただと? なめんじゃねぇぞこのエロガッパ。こんな美女が同じ部屋で寝てて、なんもしないでいられるわけねえだろ。え?」
「落ち着け。俺はなにもしてない」
「だからあり得ねえっつってんだろうが!」と、ドラ子が槌を振り上げた。
「待て! 誤解だ。俺の過去を見ればわかるだろ」
「ああ、それな、出会った瞬間の一回きりだから」
「……え?」
「お前があたしを引っこ抜いただろ。その瞬間までのお前の過去は全部わかった。けど、それから先のことは知らねえってことだよ」
そう……だったのか。
「従って、お前はあたしになにかした」
「いや、濡れ衣だ。信じてくれ。本当になにもしてないんだ」
「死ね!」
ドラ子の両目がギラリと光った。
やばい、死ぬ。
――と思った瞬間、ドラ子の体は白い光に包まれ、元のマンドラゴラの姿に戻った。
「チッ、魔力切れだ。運が良かったなコノヤロー」
助かった。ちょっと走馬燈が見えた。
ドラ子の魔力も底なしではなかったようだ。
それでも、半日以上にわたって
というか、魔力が切れても気を失わないとは、どういう
「しゃあねえ。この落とし前をつけるには、いい酒買ってきてもらうしかねえな」
「まだ、というか、朝から飲むのか」
「いくらでもいつでも飲むんだよバカヤロー。おら、さっさと買い行けや」
「いや、今は持ち合わせが……」
昨日の支払いも手持ちで足りなかったからツケにしてもらったのである。
「うるせえ! 酒だ酒だ!」
床の上で人面イモが酒だ酒だと騒いでいる。これは悪い夢なのではないだろうか。いや、後頭部はまだズキズキしているから、夢ではない。
どうにかドラ子をなだめ終えた時、目玉焼きは完全に冷めてしまっていた。
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