第18話
店内の客たちが騒然として逃げ惑っている。
私はそれを意識しているが、相手にとってはそんな事は関係ないという。
そこが私とカルアの戦いの差になった。
再び振り下ろされた長剣が私の左腕を掠める。
そして、聞こえた悲鳴に思わず振り返ると、その隙に長剣が私の肩の辺りに刺激を与えてきた。
明らかにやられた感覚。
肩に熱いものを感じる。
カルアの方を見ると、長剣の輝きの中に赤が混じっていた。
「油断は、命を盗るからな。なぁ、相棒?」
カルアが話しかけたのは人間ではなく、長剣。
刃の部分を撫でているのを見て、私は神経を疑った。
しかし、刃の部分を何度も素手で撫でているカルアの手が切れている様子はない。
「すごく仲が良いのね。その不思議な剣と。」
私はやられた肩を押さえてみて、出血量を確認した。
これなら大丈夫そうだ。
「あぁ、こいつは俺だけを選んでくれてな。俺以外は何でも切り落とすが、俺だけには優しく触れてくれる。まぁ、聖なる剣だから、主を大事にしてくれてるんだろうかな。」
「聖なる剣って、ゲームとかで勇者が持つやつだよね?」
「ゲーム?それは良く分からんが、こいつは紛れもなく勇者が持つための聖なる剣だったやつだよ。俺は元勇者だからな。」
その告白に、私は固まった。
「驚き過ぎだろ?一回世界を救ってみて、俺には向いてないって分かったから相棒と一緒に転職したんだよ。」
続きも衝撃的過ぎだ。
勇者が向いてないからと、悪どい仕事に転職しましたとか聞いたことがない。
「でも、カルアは他の回収業者より評判良かったわよ?やっぱり元勇者として、良心が残ってるの?」
「いいや、評判良いのは他のとこでも雇ってもらうための根回しだよ。そうすれば、後が楽だろ?」
何て抜かりのない元勇者だろうか…………
これは、本当に勇者に向いてないと私も思った。
と、再びカルアが長剣を振り回し始める。
「勇者をしてた時に俺は綺麗な理想より、まずは現実だと思ったからな。勇者は綺麗なとこだけ見たら、強くてカッコいいみんなの英雄だが、そんな綺麗なもんほとんど無いからな。」
話している内容と対称的な爽やかな笑顔が、鳥肌が立つほど恐ろしい。
飲み会、宴会承ります 如月灯名 @kinoo
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