第17話
「あの!すみません!」
私が出来るだけ大きな声をかけると、回収業者の人がすぐに振り返った。
「…………あ、昨日の人。」
そのリアクションは、隙だらけで口が半開きになっているなんてことは本人には言わなかった。
「昨日はありがとうございました!」
私は深く頭を下げて、店長から準備して、もらった布袋を差し出した。
「これは何ですか?」
「これは、昨日立て替えていただいたここの代金です。失礼な事を言った上にお金まで。本当にすみませんでした。」
私はもう一度頭を下げた。
「わざわざありがとうございます。しかし、失礼な事の方は私は言われた覚えがないので謝らなくて大丈夫ですよ。」
「いえ、そちらが仕事でされている事を、私の偏見で非難してしまったことはやってはいけないことですので。」
「あ、気にしないでください。それが普通ですから。私たちはここで酔い潰れた人たちを容赦なく連れていってるんですから。あなたの連れの方たちも、あなたが連れて帰らなかったら躊躇うことなく連れていってたんですよ。それにしてもあなたはすごく正義感が強くて、私の斡旋している世界で勇者としてやっていけそうだ。」
笑って穏やかに対応してくれている、その人の目が一瞬鋭くなる。
私はその瞬間、咄嗟に防御の体勢をとっていた。
「そんな構えないで下さい。ただ、お薦めの職業を言っただけですから。」
「あなたが勇者やれば良いのに。強いんでしょ。」
私が思わず口にすると、その人は背中を向けた。
「私は正義というものはどうも苦手でね。…………木佐木 毬さん。さて、仕事、仕事。」
何で名前を知っているのか?という言葉は口から出ては来なかった。
そのまま、店内をのんびり巡回する姿を睨み付けながら見送った。
姿が見えなくなって、身体の力を抜く。
と、その時、まだ気を抜くには早かった事を知った。
遠藤くんと香田さんを両肩に担いでいたのだ。
「おい、あんた!」
私はそいつに声をかけながら、香田さんを引っ張った。
とにかく助けないとという気持ちが強くて力任せに引っ張ったせいか、香田さんの服の一部が、ビリビリと破れる。
それでも、私は引っ張って引き剥がすことに成功。
それから、香田さんを後ろに追いやって身体の位置を低くして足払いをして相手を転ばせる。
遠藤くんも一緒に床に転がる。
多少の犠牲は、想定内。
生きてるから問題ない!
まだ遠藤くんを掴んでいる手を蹴り上げて後退りする。
すると、私が居た場所に輝きが眩しい何かが振り下ろされた。
一瞬の間の後、それが長剣だと分かり息を吐く。
「そんな危ないもの振り回したら、関係ない人も怪我するわよ?」
私は間合いを測りながら、そう呟いた。
「怪我したら、それは運が悪いからだ。俺には関係ない。それと、あんたじゃなくてカルアだ。」
先程とは全く違う喋り方。
目付きも、動きも全てが鋭い。
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