第16話

「ほんと、リアル過ぎるからね~」


遠藤くんが言ったそのまんまだが、取り敢えず誤魔化されてくれたので笑っておいた。


と、遠藤くんのお腹がグルルと威嚇してきた。


「何かホッとしたらお腹が鳴っちゃいました。」


恥じらいから頭を掻きながら笑う遠藤くん。


「さて、そろそろ私は失礼致します。また、何かありましたら声をかけてください。…………ご注文はお決まりですか?」


店長が自らメモ用紙を取り出して、注文を聞こうとしている。


私は店長の人の良さに感動して、感謝した。


「では、まずは酢豚定食と唐揚げ定食をお願いします。」


「あ!酢豚定食はご飯大盛りでお願いします。」


私が注文していると、遠藤くんが慌てて補足した。


余程お腹が空いていたのだろう。


「はい。酢豚定食ご飯大盛りと、唐揚げ定食ですね。しばらくお待ちください。」


店長はお辞儀を一つ残して去っていった。


あの店長の物腰は、ホストクラブでも通用しそうな気がする。


もちろん、見た目がもう少し大人だったらだ。


「あ、先輩。香田からメールが来てたみたいです。数分前に。」


遠藤くんが携帯を見ながら呟いた。


「え?今こっちに来てるとか?」


「はい。もうすぐ着くって書いてあります。」


「ほんと!?」


私は慌てた。


香田さんは、このままだと間違いなく普通の『居酒屋 蒼海』に行ってしまう。


「遠藤くん、香田さんにそのまま突き当たりにあるコンビニでコーヒー買ってからきてって伝えて!至急!」


「あ、え?はい。」


私は、迎えに行くという面倒なことになりませんようにと祈った。



────



「だぁ、かぁ、らぁ!そうじゃないですってば!」


「んなぁ~、それで良いっつってるだろうが!」


結局、二人は完全な酔っぱらいになってしまった。


私は一人、全く酔うことが出来ないまま日本酒をチビリチビリと口にしながら二人の様子を眺めた。


それから、大きな溜め息を吐いて時計と店内を確認する。


まだ昨日の回収業者は来ていないようだ。


もう、すでに店に来てから四時間近くが経過している。


これ以上二人がとんでもないことにならないように、先程からこっそりビールを烏龍茶に変えているのだがそんなことにも全く気付かない。


回収業者の人が来るまでに少しでも二人の酔いが醒めていてくれたら助かるのだが、それは無理な願いなのだろうか。


そんな事をぼんやりと考えていると、こちらに指先で小さな合図を送っている店長を見つけた。


その様子からして、おそらく回収業者が来たという感じだ。


私は頷いて見せた。


それから、店長が示していた辺りに目をやると、昨日の人が店の隅から姿を現した。


私は急いで立ち上がる。


「あれ?先輩?」


酔っ払いの呼び止めは無視して、回収業者の人を追いかける。



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