第15話
「お待たせしました。」
私と遠藤くんの前にお冷やとおしぼりが置かれる。
それから、「失礼します。」と声をかけて店長が座敷の上がり段に腰掛けた。
「どんなことを訊きたいんですか?」
その口調は手早く終わらせたいという感じではなく、とても話し出しやすかった。
「先程、私たちの住む所の方の『居酒屋 蒼海』に間違って入ってから、こっちに入り直しました。見た目が全く同じで混乱しましたが、ここに入るには必ずトンネルのような所を通ってからなんですか?」
「あ、参考にどころか完全コピーだってことがバレました?確かに、この店に入るにはどこの世界でも繋がっている専用の通路を通って入るようになってますので、そのトンネルのような所を通ってからしか入れないと思います。」
一つ謎がすっきりした。
これで、この店に来るのに困ることはないだろう。
そう思いながら、自分がこの店を気に入ってまた来ることを考えていることに驚いた。
「それから、このお店に繋がっている世界は幾つくらいあるんですか?どんなところが繋がっているんですか?」
「そうですねぇ…………正式に繋がっているのは五つですね。『マサラガン』、『フリーシス』、『テレオストリミング』、『マリン』、『アイレス』です。それと、
地球のように正式に繋がってはいない所は幾つかあります。…………あ、あなた方に分かりやすい呼び方で天体名で言いましたが、こちらではそちらの世界は『トール』と呼ばれているんですよ。」
「何だかすごいですね…………」
私が話に圧倒されていると、肩に何かが当たる感覚があり首を動かした。
そこにはすごく泣きそうな遠藤くんの顔があった。
遠藤くんがわたしの肩をつついていたようだ。
「一体何の話をしてるんですか?何がどうなってるんですか?」
いつも元気いっぱいの遠藤が、ここまで不安そうな様子を見せるのは初めてだった。
それだけ、頭の中が混乱しているということだろう。
私は、遠藤くんには聞かせない方が良かったかなと思いながら、安心させるために笑って見せた。
「大丈夫だよ。ただの言葉遊びだから。」
「お連れの方は、分かっていらっしゃらなかったのですね。」
店長が申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「…………ここは、普通の居酒屋じゃないんですか?」
遠藤くんが弱々しい声で、店長に質問する。
店長は困った顔で私の方を見た。
「遠藤くん、ここは不思議なお話の世界を味わうサービスを始めたらしいんだ。さっきからやってる会話もそれ。」
とても雑で適当な説明だが、これで誤魔化されてくれるだろうか。
「そうだったんですね。よかったぁ!何か変な世界と繋がったお店に入っちゃったのかと思って焦っちゃいました。」
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