第8話 グレーの男
家に帰ると、早速母が天ぷらうどんを作ってくれた。
食卓台に運んでくれたうどんと、わたしは目があった。
うどんと目が合う?おかしな話だと思うだろう。わたしも思ったのだから。
しばし見つめ合う!!
というよりも、わたしは固まっているのだ。
つぶらな瞳のそれは、私の次の行動を待っているかのようだ。
目を逸らしてはいけないような、目を逸らせないと言った方が正しいのかもしれない。
それとは、とぐろを巻いた黒ヘビのことだ。
とぐろを巻いた黒ヘビは、ペロペロとわたしを見ながら舌を出した。
もうここが限界だ。
「い……やぁーーーーーわあぁーーーー」
new houseで目覚めた。
誰もいないのか。珍しい。
いや、居る。
わたしの部屋のドアの前に。
グレーのスーツを着た男だ。
new houseでは、あまり不思議な事は起きないのに、何故、セキュリティが万全の部屋に入れたのか。
「あなたは誰ですか」
「お前にはもう分かっているんだろう。どちらの世界が現実なのかということを」
「今いる場所だと思います」
「そうだ。ここにずっといたいか?」
「……」
ここが現実で、もうold homeへは行かなくて済むという事なのだろうか。
「選んでもいいんだぞ」
選ぶ⁈
「今日は、現実の世界で一生暮らしていくのか、それとも向こうの世界で暮らしていくのか、決める日なのだ。さあ、どっちを選ぶ」
「ふたつからしか選べないの?」
「そうだ」
「3つ目の世界があるんじゃないの?」
「ははは」
「あなたは昔会った、あのロボットでしょ。わたしには分かるのよ。わたしが人の心の中が読める事は、あなたも知っているんでしょう。あなたがロボットでも同じ。あなたの心の中に、3つ目の世界があると出てるわよ」
「じゃあどうするんだ。早く選ばないとここに留まる事になるだけだぞ」
「わたしは……」
わたしが選んだのは……。
どちらの世界が本物なのか 桜庭みゆき @Koorihime
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