第3話 眠り病

 old homeでの、一番印象深い記憶は、私が4歳の頃「おい、ちょっと来てみろ」と、父が珍しく、わたしと母を呼んだ時のこと。お父さんが普通だ、と思ったのも印象に残っているが、それだけではない。


 父は玄関先に居て、玄関の戸を、少しだけ開けて、外を見ろというように、指をさしていた。私と母が近寄って行くと「声を出すなよ」と言う。


 わたし達3人は、少し開いた戸の隙間から外を見た。外は夜で暗闇だった。だけどすぐに、私の目に、ある物が映った。


 ロボット……。


 カクンカクンと、TVの中で観た事のある、四角い顔で、全体が銀色のようなロボットが、玄関の方に向かって歩いて来た。


 その後の記憶はない。


 余りにもショックな出来事で、わたしは、あのロボットの事について、その後しばらくは、母に聞く事はしなかった。


 小学校の高学年になった頃だったと思うが、初めて、あのロボットの話を母にしてみた。


「ロボット見たよね?わたしが小さい頃。お父さんが玄関の所に私達を呼んでさ」


「ロボット?見てないよ。夢でも見たんでしょ」


 昔の事なので母は忘れてしまったのだと思い、何度も何度も聞いてみたのだが、母は絶対に見ていないと言う。


 夢か夢じゃないかくらい、4歳の時だったとしても判断はつく。大人は記憶を消されたのだろうか。


 不思議な出来事は、それだけではなかった。


 例えば、学校が終わり、家に戻って玄関の戸を開けると、何十匹ものヘビが、玄関や家の中でとぐろを巻いていたり、猛獣が家の外で唸り声を上げ、家の中に入り込もうとウロウロしていたり、UFOは空を飛びまくっていた。


 そんな事が日常茶飯事に起こる。だけど、そんな事が起きたすぐ後には、new houseに来ている。


 やはり夢なのだろうか?new houseが現実の世界で、私はold homeという世界の夢を見ているのだろうか。


 だけど、夢というには、はっきりとし過ぎているし、現実としか思えない。同じ家が出て来て、そこへ住み、学校へ通い、普通に毎日を送っているのだ。


 old homeは異世界なのだろうか?そうなのかもしれない。だけど、わたしは最初から、ふたつの世界で生きているので、わからないのだ。


 new houseでは、わたしは「眠り病」という病気にかかっているらしい。


 らしいというのは、自分ではわからないからだ。ふたつの世界を行き来する時に、意識がなくなり、倒れているからだろう。


 new houseでは、母がいろんな大学病院へわたしを連れて行き、検査を受けさせられた。しかし、どんなに偉い医者でも、わたしの病気の事はわからないのだ。


 なので仕方なく、眠り病という病名がついたのだろう。


 old homeでも、わたしは意識をなくし倒れているようだ。だけど、貧しいので両親は病院へなど連れてはいかない。


「どこでも寝てしまう子」くらいにしか捉えていない。


 学校では「寝太郎」というあだ名をつけられていた。酷すぎる。わたしは一応これでも女の子なのだ。せめて眠り姫にして欲しかった……。

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