第2話 ふたつの家
不思議な事に、両親はどちらの世界も同じ人物だ。
ただ、異なる事はある。
それは、old homeでは、父は働きもせずに酒ばかり呑んでいて、それ故、貧しく、今では、大人になったわたしが、家計を助けているという形で、なんとか生き延びている。
それ以前は、近所に父方の祖父母が住んでいるので、そこで食事をしたり、お風呂へ入ったりしていたのだ。
当然、洋服等は、全て親戚のお下がりで、私は学校で虐めに遭っていた。
new houseは、old homeとは真逆の世界だ。
父は、大会社の社長で、わたしは大人になっているのに、働く事は禁止されている。父の考えでは、わたしなどが変に働いて、自分に迷惑が掛かるくらいなら遊んでおけという事らしい。
お手伝いさんの作る、豪華な食事、ブランド物の洋服や靴やバッグ、この世にある物は、全て持っているのではないか、と思うくらい、子供の頃から何でも与えられてきた。
欲しくない、などと言おうものなら、母が悲しい顔をするので、わたしはいつの頃からか、自分の感情は押し殺す事を覚えた。
それに、ここが一番重要な事なのだけれど、自分の考えている事を言ったり、物事を深く考え込んでしまうと、瞬時に、もうひとつの世界へと飛ばされてしまうのだ。
例えば、new houseで、母に反発をしたり、余りにもold homeの世界とは異なった父の存在や、環境の違いの事を考えているだけで、old homeへと行ってしまうのだ。
そして、old homeで体験した事に対して、驚いたりすると、途端にnew houseに来ているという具合いなのだ。
それならば、どちらが住み心地が良いかと考えると、やはりnew houseの方なので、何も考えずにいれば、old homeへは行かなくて済む筈なのだが、考えないようにする事、心を無にする事など、無理な事なのである。
それに、心を無にしてまでnew houseに居座っても、楽しい事は何もない。
それなりに諦めてさえいれば、old homeへ行く回数は減らせるという術を、私は身につけつつはある。
しかし、感情を押し殺していると、ストレスが溜まり、爆発をして、結局old homeへと行っている。
そんな繰り返しで、現在まで生きてきたのだ。
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