第4話 友達

 人間という生き物は、なんて残酷な生き物なのだろうか。


 人間は何故、人を虐めたがるのか。どんな人間が虐めをするのか。


 old homeでは、貧しいという事もあるが、わたしは人と話す事が苦手で、話しかけられても応えないし、反発もしないので、大人しいから虐めやすいという事、そして逆に何も言わないからイライラするという理由でも、虐めのターゲットにされていたのだと思う。


 悔しくても、悲しくても、何も言い返せないわたしは、そのまま意識を失う。きっと誰も心配などしないのだろう。


 意識を失った後のold homeでの人々の出来事は、わたしにはわからないのだ。わたしはその後、new houseで目覚めるのだ。


 new houseの世界でも、わたしは虐めに遭った。old homeとは全く逆の理由、裕福という事で嫉妬されていたのだろう。


 それにわたしは、どちらの世界でも性格は同じなのだ。わたしという人間は1人しかいないので当然の事だ。喋らない、大人しい、暗いという理由で人をイラつかせ虐めに遭う。


 だけど、ひとつ違うのは、裕福な家庭のわたしには、わたしの事を守ろうとする人が周りにいるのである。


 わたしの事を、友達だとか親友だとか言う人達の事だ。


 わたし自身は、そんな人達の事を、友達だとは思わない。何故だかわかるだろうか。どちらの世界も、同級生はみんな同じ人達なのだ。


 old homeで友達でもなんでもない人達が、new houseではわたしの機嫌を取ってくる。思わず笑いが込み上げてくる。それと同時に吐き気もしてくる。


 面白いのは、old homeでわたしを虐めていた人達は、new houseでは、やはり嫉妬心で意地悪をしてくる。性格が同じなのは、わたしだけではなく、みんな同じようだ。


 父親は全く違うではないか、と思うかもしれないが、そうでもない。どんな理由で大会社の社長になったのかはわからないが、本当は働く事はあまり好きではないのではないかとわたしは感じているし、貧困で呑んだくれていた理由も、本当のところはわたしにはわからないのだから。


 表面だけの友達でも、old homeではいなかった友達が出来たことに、正直嬉しい気持ちもあった。だから家にも呼んだりもしていた。呼ぶ、というよりは「あやちゃんの家に遊びに行ってもいい?」と彼女達が言うからだ。もしわたしが嫌でも、拒否出来ない事は言うまでもない。


 彼女達は、わたしの持っているオモチャや洋服や、裕福な家庭の生活に興味があるだけなのだ。


 更に、お手伝いさんや母親が、彼女達をわたしの大切な友達として、特別に扱ってくれる。彼女達もそこはわかっているかのように、母親に気に入られるよう、礼儀正しく、お行儀よくしているのだ。子供ながらに私は彼女達の態度に関心してしまったが、同時に何とも言えない胸くそ悪いものが込み上げてきた。


 うちに来れば、たくさんのオモチャで遊べ、高級なオヤツが出てくる。泊まれる部屋もあるので、週末や夏休みなどには泊まりに来る事もあった。


 豪華な夕食に、当時はまだ珍しかった洋式のトイレやバスルーム、ふかふかのベッド、一軒家の豪邸に住んでいた時には、プールも使えた。まるでテーマパークにでも来たかのように、キャアキャアと騒ぐ彼女達。


 そんな事も、わたしが中学生になる頃には無くなってしまった。虐めるタイプの同級生達から、わたしの取り巻きだとからかわれて来なくなる子もいたし、わたし自身が楽しくなかったという事もある。


 本当の友達など、どちらの世界にもひとりもいない。


 中学や高校の時、この人なら本当の友達になれるのでは、と思った事は何度もあるが、その度にやはり裏切られたような気持ちになるのだ。


 友人達の言葉の端々や、心の奥底にあるものを、わたしはすぐに感じ取ってしまう。


 old homeでは、自分より貧しい家庭のわたしを、小馬鹿にしたものがあり、new houseでは、嫉妬心が垣間見えてしまうからだ。


 わたしには、人の心の中が全て見えてしまうという特殊な能力があるようなのだ。それによって、人間の美しい部分より、醜い部分の方が、わたしの心に強く印象付けられてしまう事で、人を信用出来なくなってしまっているのだ。


 ずっと不思議に思っていた。人が話している言葉と、心の中で思っている事が、違っている事があることに。


 だから尚更、わたしは言葉を発せなくなるのだ。


 どうして言ってる事と思ってる事が違うの?と、思わず聞いてしまいたくなる場面が頻繁にある。幼い頃は実際に言葉に出してしまって怒られた事もある。なので、言葉と心が違っていても、口にしてはいけないのだという事を学んだ。


 new houseで友達がよく言っていた言葉がある。


「綾の事は親友だと思っているから!ずっと親友でいようね」


 そんな友人の心の中は……。


 ーあんたがお金持ちじゃなかったら、友達なんかなってないわよ。なんでそんなに暗いの?ほんとに鬱陶しいー


 その直後、わたしは意識を失ってしまうのだ。

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