第41話 期待、焦燥、裏表
ショッピングモールの通路は多くの客が行き交っている。家族連れや高校生、お年寄り、カップル。来美と前嶋も手を繋ぎ、通行人に紛れて歩いている。
「瀬理のお陰でいい買い物ができた」
前嶋は買い物袋を見せて微笑む。
「なら良かった」
賑やかな通路の先はずっと続いている。曲がったり、下ったり、上ったりしながらも、道はずっと続いている。屋根がついてなくとも、壁がなかろうと、道はどこまでも続く。景色も変わり、人がいなくなっても、道は続くのだろう。
でも、今は繋いだ手が来美に勇気を与えてくれている。柔らかい照明の明かりの下を歩きながらニヤケてしまう。
「瀬理」
「何?」
「いつでも、こうやって2人で歩きたいな」
前嶋は前を見据えながら、小さく開いた口で言った。
「うん、そうだね」
来美は強く未来を意識する。本当にそうなれたら、あの時結婚して良かったと思えるかもしれない。
「あそこ寄ってかない」
「ん?」
前嶋が差したのはジュエリーショップ。
「いいよね?」
「う、うん」
前嶋は意気揚々と来美の手を引く。来美は少しの戸惑いを感じながらショップに近づく。
「これ良さそうだなぁ」
「買うの?」
「うん。ああ、でもここは俺もちでいいから、値段は気にしないでいいよ」
「私はいいよ。今日しゃぶしゃぶ店も奢ってもらっちゃったし」
「大丈夫、これくらい気にするなよ。たまにはこういう買い物もいいだろ。もちろん、結婚指輪はちゃんとしたあの指輪で。気軽に選んで」
前嶋は気前のいいこと言って見せて、品定めに入る。来美は前嶋の促しにうんともすんとも言えなかった。
「早速勝負に出たな。アピールタイムだ。ここは乗っておけ。気に入らなかったら後で換金すればいいんだから」
鷹野から下世話なアドバイスが来る。今すぐイヤホンを外したい衝動に駆られたが、気持ちを押し殺して息を吐き出す。
前嶋は戸惑う来美に構わず、ショーケースに入った指輪を見ていく。時折「これなんかどう?」と来美に聞いて微笑む。
楽しそうな前嶋の笑顔をここで壊したくなかった。来美は曖昧に答えながら心の片隅に生えた疎外感を持て余した。
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