第31話 時に少女へ戻る
来美は鷹野たちと別れ、1人自宅へ向かっていた。ふわふわする心地を携えながら、静けさが深まる夜を歩くのが来美のちょっとした楽しみだったりする。
少しずつ酔いから醒めていく感覚の中、前方の空に浮かぶ星を見ながら帰る。
そんな楽しみを持っている自分に恥ずかしさを覚えてはいるものの、言わなきゃいいことだし、ロマンチックに酔ったっていいじゃないか!と、羞恥心に怯える自分を言い聞かせている。
街の光に負けないように、光放つ小さな星を見ると、頑張ってと応援したくなるのだ。そして、自分も頑張ろうと励まされる。
ありふれているささやかな希望に覆われた空の下を歩いているだけで、少女に戻った気分になれる。
世界が輝いて見えたあの頃を忘れないことが、デザインセンスの根っこになっていた。
夜の星に魅せられていた来美の表情が突然陰りを帯びる。
来美が歩いている住宅街の道は人気も少なくなっており、静けさが際立っていた。
その中で感じた視線と背後にある気配。
来美は後ろを向くが、誰も後ろを歩いていない。反対側の路肩を対向して歩いてくる通行人の男性は、携帯にゾッコンらしく、周りを気にしている様子はない。
来美は気のせいかもしれないと思い、腕時計に目をやる。
23時を回っており、明日の出勤時間から逆算して睡眠時間を計算していく。さっきまで聞こえなかった足音が聞こえてきた。
後ろを歩いている人がいるのはよくあることだ。でも、来美には後ろにいるであろう誰かに妙な不快感を抱いた。
気にしながらも真っ直ぐ自宅へ向かう。しかし、靴音はずっとついてくる。
こんなに同じ道を歩くことになるだろうかと疑問が湧いてくる。
来美の通る道は、幹線道路へ出る道からは遠回りになる。自宅が近くにあるにしても、こんなに帰る時間がぴったり合うことは滅多になかった。
後ろを歩く誰かが危険な人物かどうかを状況から考えて判断しようとするも、何より湧いてくる不快な感情がとにかくこの状況から脱したいと訴えてくる。
来美は歩く速度を速めた。後ろの足音も段々速くなる。
来美は怖くなり、先に見える角を曲がって5秒後に振り向こうと決めた。ついてくる足音に追いつかれないよう一定のテンポで歩く。角を曲がり、5秒数える。そして、素早く振り向いた。
後ろには誰もいない。街灯が降り注ぐ見通しの良い道をくまなく見つめるが、100メートルくらい先にカップルらしき人影が見えるだけ。
来美はため息を零し、再び歩き出す。それ以後、足音は聞こえなくなった。
せっかくいい気分で酔えていたのに、後味の悪い帰宅となった。
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