第27話 核心の外側
来美はほろ酔い気分で夜道を歩いていた。この前の反省も踏まえ、今日はお酒を控え目にして、少し早めに居酒屋を出ていた。
鷹野がこのところ、2日に1回はあの居酒屋に来ていた。もし、あの日以降来なくなったら、結婚が怖いことを突っ込まれたのが余程心に来てしまったのか、あるいは記憶の無い所で自分が何かしたかもしれないと、来美はちょっと心配していた。
来美は自宅に戻り、すぐに暖房をつける。部屋の中に入ってやっと落ち着ける。
まだ体や手が冷たく、コートを脱げない。
来美は携帯を見る。メール着信が2件。前嶋からだ。
このところほとんど毎日来る前嶋からのメール。これが嫌々やっているのでなければいいんだけどと不安が過る。ご機嫌を取って今の状況をなんとかしようという理由だけでやっているのであれば、このメールはいつか途切れる。
それはそれでいいけど、一番問題なのは結婚の話ができていないことで、今の状況の核心がそこにあることは来美も分かっていた。
メールは何気ない仕事の労いや普通の話を面白おかしくしたエピソードで占められている。しかし、来美はそんな話をしたいわけじゃない。お互いに核心の外側でグルグル回っているだけじゃいけないのだ。
少し踏み込んで、お互いが避けている核心の中に入って話さなければならない。プロポーズの返事をすると決めた日までにできることはやっておこう。後悔なく、その決断に納得でき、その決断に進んだ自分を受け入れられるように。
来美は慎重に言葉を選んで、返信メールを送信した。
『ありがとう。元気出たよ。でも、そろそろ進もうか。今の私達に必要なのはこんな話じゃないと思うんだ。気になることがあれば聞いてくれていいから』
自分からいきなり話す気にはなれなかった。
自分が結婚するのが怖くて、めんどくさくて、今のままがいいだなんて話を自分でする勇気はなかった。
ちょっとくらいは前嶋にも歩み寄ってほしいと思っていいだろうだなんて考えが、来美を引き留めた。
前嶋の反応を窺ってからでも遅くはない。そう言い聞かせて気長にメールの返信を待ったが、前嶋の返信が来る前に日付が変わってしまった。
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