第25話 依存が結婚の近道

 来美は整体やエステサロンで体を癒し、偏った食事を整えようとサラダ専門店に行き、ジムで軽く汗を流して、フードコートのある書店で読書をしたりと、思う存分休日を堪能した。

来美は帰宅し、夜ご飯をどうするかと宅配チラシを眺めたり、携帯で探したりする。

「お寿司にしようっと」

来美は携帯でお店に注文した。

携帯をローテーブルに置いて、特上のお寿司をお気に入りのクッションを抱えて待つ。


来美は窓に近寄り、景色に目を移す。光に色づく街並みは、夜の中で形を変えていく。車のライト、家やビルの窓の明かり、街灯、お店の看板や広告看板を照らすスポットライト。人は小人のように小さく見える。

夜でも人は街に居続け、活動を続ける。夜であろうと、欲は眠らない。


 便利になった社会。様々な誘惑が街に溢れている。

お金さえあれば、手間もかからず簡単に欲を満たせてしまう。

こんなに簡単に欲が満たせてしまえば、別に1人でもいいんじゃない?なんて思ってしまう。


部屋の床の掃除はロボットがやってくれるし、皿洗いは洗浄機、食事はインスタントや宅配、飲食店もある。

当たり前だが、洗濯は洗濯機でできるし、洗濯機が壊れたらコインランドリーがある。

こんな寒い冬でも暖房はケチらず部屋を借りればついてるし、以前映画館で観た映画をもう一度観たいと思えば、DVDを買えばいい。

お金さえあれば、大体のことはできてしまう。

なら、結婚しなくても1人で生きていける。


 恋愛に然り、結婚もまたちょっとした依存的な関係を持ち合わせている。

恋愛は互いに好きなところがあり、その好きなところを近くで感じていたいとか、もっと知りたいとか、好きな人はどんなことが好きで、どんなことに興味があるのか、どんな物を好むのか、なんてことを気にしている。

そして、好きな人とどんな時間を過ごしたいのか、好きな人とどこに行きたいのか、自分はどんな洋服を着て、彼の隣にいるのか。妄想を膨らませ、楽しいだろうなと期待し、胸の高鳴りを必死に押さえて、もう大人でしょと気を引き締める。


その妄想を1つ1つ現実のものとしていくのもまた楽しみで、予想もしてなかった楽しみや相手にされて嬉しかったことがあったりなんかしたら、また好きになる。

そんな互いの嬉しさを満たし、満たし返すような依存関係みたいなところが恋愛ならば、結婚は生活的な満足感に依存している側面もある。

これは恋愛のようなときめく話ではなく、もっと生々しい話だったりする。


 例えば、結婚する女性が仕事を辞めたくないと思っていても、男は女性に仕事を辞めてもらって家事を任せたいと思っている。

家事と仕事の役割を分けるのだ。

収入は夫が担い、様々な支出を管理するのが妻だとして、一種の役割分担が成立する。そうすると、妻は夫の稼いだお金で生活し、夫は妻の身の回りの世話をやってもらえるという相互依存関係が成立する。

それが長期化すれば、依存を断ち切れず、抜け出すのは一苦労だったりする。


しかし、自分のようにお金に困らない収入を持っている人間は例外だ。

仕事もでき、家事は機械に任せるところは任せ、できないことは社会にあるサービスで補うことができる。

生々しい部分を相手に依存しない人間にとって、結婚の価値は精神的な要求のみ、つまり、恋愛のような相互依存関係しかなくなってくる。


男尊社会だった名残で、男は女性に収入を越えられたくないし、女性は男に一家の大黒柱としてのカッコよさみたいなところを求めてしまう人もいるかもしれない。

古き良き美化された妻像と夫像は見えないところで行き交い、すれ違う。

理想に埋もれつつある普総概念は、結婚の意義を見えなくさせ、来美のように迷う。

考えるのが鬱陶しくなり、今の生活に満足しているなら今のままでいいやって思ってしまう。それもまた1つの選択肢として認められる以上、阻むものなど何もないはずだった。


 それが大切で好きな人の想いが阻み、悩む日々が続く。

金井の言ったように、結婚を申し込まれるなんてありふれているような話がない人だっているかもしれない。恵まれた申し出を断ることにためらいを覚える。

金井の泣き顔を思い出せば、その重みとありがたみが今の来美には分かる気がした。

利便性の高い社会の恩恵を心ゆくまで利用している結婚に恵まれない人が、この便利な社会が結婚を阻んでいるのだ! と、喚く気持ちも分かるような気になる。

恵まれたことは当たり前ではなくて、全てが誰かにとって『奇跡』みたいなものだったりするのかもしれない。


テレビもつけずに、静かな室内でボーっとしていた。

考えながらボーっとするなんて久しぶりかも、とか思ったが、すぐに社員から不思議系といじられたことを思い出し、頭を掻いた。

さっさとお寿司来いと急かすように念じ、ドアを見つめては視線を逸らしを繰り返し、夜ご飯を待ちわびる来美の休日は、終わりを迎えようとしていた。

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