第20話 なんのための結婚?
来美は姿勢を直し、2人を見つめる。来美は話そうとしたが、一瞬口をつぐんだ。
山本と天都は自分の経営する会社の従業員。大っぴらに偏った結婚観を話していいものか。それを聞いた2人が社長をどう思うのか、仕事に差し支えやしないか。
漠然とした不安を覚え、何を聞くのか考えたのち、口を開いた。
「2人は、結婚について考えたことある?」
「はい?」
「結婚したいって思うかってこと」
「まあ、それなりに……」
いきなり飛び出した話に戸惑いながら天都が答え、山本と顔を見合わせる。
「なんで結婚したいって思うの?」
「そりゃあ幸せな家庭を夢見るじゃないですか」
「ウェディングドレスを着て、大勢の友人に見守られながら好きな人と結婚式を挙げるのもまた夢よね」
「分かります分かります」
山本と天都は互いに頬を緩ませて共感し合う。
「他には?」
「他ですか?そうですねぇ……子供が欲しい人は結婚しようと思うでしょうし」
山本は少し考えながら話す。
「これからどんどん年取っていって、死ぬ時に1人は嫌ですしね」
天都がしみじみと答える。
「あーそれは嫌ですねー。孤独死とか、やっぱり誰かいるってだけで安心しますもんね」
「今は友達や彼氏とか、仕事とかあるけど、おばあちゃんになったらそれもなくなって、寂しくなると思うんですよね」
「怖いこと言わないでくださいよ天都さーん」
山本は天都に苦言を呈す。
「そういうこともちゃんと考えた方がいいよ?気づいた時にはもう手遅れなんてこともあるんだから」
「絶対結婚しよ」
山本は決意めいた呟きを発して、コーヒーを飲む。
「じゃあ、寂しいから結婚するってこと?」
「そういう人もいるんじゃないですか?このまま1人で死んでいくのかなって思うことないですか?」
「いや、さすがに……」
来美は苦笑いを浮かべて口を濁す。
「そうですよ。天都さんくらいですよ。そういうの考えるの」
「そうかなぁ。1人暮らししてて、彼氏もいない時、仕事して、休みの日には服買って映画観たりするけど、中身のない時間がどんどん過ぎて行ってるような気がして、私これで大丈夫?って突然不安になってたんですよねぇ」
「相当病んでるじゃないですか」
山本は少し引き気味に天都を見る。
「文美はまだ若いもんね。25過ぎたら来るから」
「そんな前フリいりませんよー」
「そっか……」
来美は肘をついて自分のコーヒーカップを虚ろに見つめる。
「あの社長、もしかして……」
山本が来美をまじまじと見つめる。
「え、なに?」
来美は山本の視線に気づいて戸惑う。山本の口はニヤついている。
「マリッジブルーですか?」
山本の言葉が胸の奥を突いて、すぐに否定できなかった。
「あ、やっぱり!そうなんですね!」
「い、いや!違うって」
「遂に社長も噂の彼氏さんと結婚ですかぁ」
山本は花の尾ひれをつけていく。
「もうからかわないでよ」
「大丈夫です社長!私もちょっと不安になることはありますけど、新婚同士、お互い頑張りましょう!」
「気が早いな。あなたはまだ入籍してないでしょ」
天都はきゃっきゃ言っている山本の気を鎮めるように言う。
「いいじゃないですかぁ。おめでたい話なんですから!」
「とりあえず参考になったわ。ありがとう」
「はい。また悩み事があったら遠慮なく相談して下さい」
山本は快活にそう言い、息抜きのガールズトークはお開きとなった。
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