第17話 混迷

 居酒屋を出て、すぐに鷹野と別れた。鷹野はビール7杯と焼酎1杯を飲んでいたが、顔色1つ変えず、しっかりとした足取りで去っていった。

来美たちは鷹野と別方向に歩を進めた。松本と金井から次の彼氏候補かと冷やかされたが、来美は鬱陶しい噂話を一蹴した。

松本は彼氏と待ち合わせしている駅に行くとのことで、途中で別れた。

途中で歩くのがめんどくさくなり、タクシーを呼んだ。

もう既に閉まっている大型スーパーの前でタクシーと合流し、金井と乗り込んだ。


 行き先を運転手に伝え、タクシーが発進する。

来美はおもむろにため息をついた。

「結婚って難しいな……」

「しみじみと呟いたね」

金井は失笑した。

「結婚したいって思えるかなって思ったけど、結婚した後がやっぱり大変なんだね」

「結婚後の話は結婚を経験した人に聞いた方がいいと思うけど」

「結婚した人の話は聞かされた」

「誰に?」

「うちの従業員から」

「あー、なるほどね」

金井は何度も頷きながら微笑する。

「結婚したら世界が変わるんだって。子供ができたらもっと変わるらしいよ」

「そりゃあねぇー、子供可愛いもん」

「子供が可愛いのは否定しないけど、子育てできるかなぁ。親になる自信がないんだよねぇ」

「誰だってそうだよ。最初から自信ある人なんかいないんだから」

「そうかなー……」


「くるみーは子供のことより、妻、夫の関係に今は悩むべきだよ。2つ、3つも問題を一気に解決しようとしないでさ」

「しのぴー大人だね。私の何倍も大人だよ」

「おばあちゃんみたいに言わないでくれない」

金井は苦笑いを浮かべて優しくツッコむが、来美は相変わらず浮かない顔をしている。

「妻と夫の関係かぁ……」

すると、金井は来美に体を向ける。

「くるみーは、恋人同士のような関係がいいんでしょ?」

「まあ、簡単に言うとね」

「じゃあそうすれば?」

「……どういうこと??」


「夫婦だからって、教科書通りの夫婦になる必要はないでしょ。くるみーは、くるみーの描いた夫婦関係を築いていけばいいんじゃない?」

「私の、夫婦関係?」

「そう。愛の形も人それぞれ。夫婦が分かり合ってさえいれば、家庭ってできるんじゃないの?変な家族って言われちゃうような、ちょっとおかしな家庭」


 車内の空気が一瞬止まった。

「……馬鹿にしてない?」

「違うよー!そういうのもいいって話」

「ほんとかなー」

来美は金井に向けて疑念の眼差しを向ける。

「微笑ましいじゃない。それで家族が笑ってるならさ、いいと思わない?」

「まあ、幸せって思ってくれてるなら、それでいい、かな」

「むしろ羨ましいよ。結婚してほしいなんて言われるとか、結婚したくてもできない人がいっぱいいる中、くるみーは結婚を申し込まれたんだから」


来美は少し驚いた表情で金井をジッと見つめた。

「どうしたの?」

金井は来美の表情に戸惑う。

「なんかあったでしょ?」

「は?」

「絶対なんかあったでしょ!?」

「なんかってなに?」

来美は金井との距離を詰める。来美は大きな瞳を向けたまま迫る。

「私、相談乗るよ?」

「なんもないから、っていうか近い」

金井はあまりの近距離に笑ってしまう。

「なんで隠すの!?私だって協力したい!」

「ちょっと!やめなって!抱き着くな変態。酔っぱらい離れろ」

タクシーの運転手は後部座席できゃっきゃしている女性2人組が発する空気に居心地の悪さを感じながら、ハンドルを握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る