第16話 私と付き合う条件
「しのぴーは?」
「しのぴー?」
鷹野は薄ら笑いを浮かべて来美を見る。来美はとことん邪魔な鷹野を睨んで、舌打ちをする。
「すみませーん!じゃがアンチョビ3つ!」
来美は鷹野の顔の前に腕を被せるように手を挙げた。鷹野は来美の手を顔の前からどかそうとするが、来美がしつこく鷹野の顔に腕を被せる。
「やめろよ!意地汚い女だな」
「どうもすみませんでしたぁー」
松本と金井はクスクスと笑っている。
「仲良いね」
金井は笑いを堪えながら来美を見やる。
「仲良くないわよ。いいからはーなーし」
来美は机を叩いて急かす。
「はいはい。私は結婚して子供がいる楽しい家庭が夢だから、今すぐにでも結婚したいと思ってる。でも、そのためには私の夢を理解して、協力してくれる夫が必要なわけ。だから、夢を実現できる夫かどうかも重要。かといって、結婚するには時間がかかる」
「見極めなきゃいけないもんね」
松本が合いの手のように言葉を挟む。
「そう。私にはもう遊んでる時間なんかない。軽いノリで付き合ってくださいって言ったきた奴は、大概尻尾巻いて逃げる」
来美は金井の言葉に若干の違和感を覚えた。いつも淡々と優しい口調なのに、今日はなんだか口調が
「しのぴーと付き合うには取り調べを受けなきゃいけないもんね」
「あー……」
来美は渋い顔をする。
「なに、取り調べって?プレイ?」
「そんな楽しいものじゃないですよ」
来美は鷹野が描いているであろう下心丸出しの想像を砕く。
「鷹野さん、受けてみますか?」
松本はニヤニヤしながら鷹野を誘う。
「おう。楽しそう」
「じゃあ行きますよ」
金井は妖艶な瞳を鷹野に真っ直ぐ向けた。
「あなたは私と結婚前提でお付き合いするということでよろしいですか?」
鷹野はどう答えればいいか分からず来美と松本に視線を振る。来美と松本は頷く。
「はい」
「もし結婚したら、あなたは自分のことは自分ですると約束しますか?」
「……はい」
金井は浅く呼吸して、話を続ける。
「勘違いされないために最初に言っておきます。私はあなたの飯炊き女でもなければ、家政婦でもありません。家のことは必ず妻がやらなければならないという法律もありません。よって、私が絶対にやらなければならない家事はないということです。
夫婦分担。この基本を元に話し合い、家の役割は決めます。もし、正当な理由もなくサボりが発覚した場合は、1週間自分でご飯を作ってもらいます。これ以降、何度も同じ過ちを繰り返すようであれば、離婚届に署名捺印をしてもらいます。よろしいですか?」
「……は、はい」
「では、こちらを頭に叩き込んだのちサインしていただけますか?」
金井はバッグからクリアファイルを取り出すと、クリアファイルから1枚の紙を抜いて、鷹野に突きつけた。
婚前契約証書と書かれた紙が見せつけられた。
「これにサインをしていただくことが、私と付き合う条件です」
「なんか、武士みたいだよね」
松本は苦笑しながら呟く。
「そこまでしてたんだ」
来美は笑顔もなくひいていた。
「うん。これくらいしないと絶対破るでしょ?」
金井は平然とした顔で婚前契約証書をバッグにしまう。
「実際やられるとなかなかクレイジーだな。はははははは!」
鷹野は笑い飛ばそうとしていたが、表情は引きつっていた。
「いつも持ち歩いてるの?それ」
来美は怪訝な表情で聞く。
「うん。そしたらいつ告白されても出せるでしょ?」
金井はニコッと笑う。来美は恐ろしい友達の一面に微笑みを返すしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます