第14話 揺らぎ

 今日は久しぶりに仕事を早く切り上げられて、松本と金井の3人で飲むことになった。もちろん行き先は好きなおじさんがいる居酒屋『角米かくべい』。少し使い古された感じがある畳の敷かれた座敷は、畳に馴染みのない來美にも温もりを感じさせてくれた。なんというか、落ち着く。

それからというもの、來美が誘った時はいつもこの店で飲むという暗黙のルールが気づいたらできていた。


「はあ……」

頬杖をついた來美が絵にかいたようなため息を零した。

「辛気くさいな~。來美、困っちゃう。って言いたいのは分かるけど、あんまり難しく考えない方がいいよ」

松本は両手の拳を顎の下に持ってきて、上目遣いでぶりっ子來美を演じながら励ます。

「そんな風にかわい子ぶったことないでしょ」

「ツッコミにも元気がない」

金井は大きく目を見開いて、大げさに愕然とする。


 來美は2人のノリについていけず、暗い表情でやみつきになる味付けキャベツをゆっくり口に運んだ。

「でも一歩進めたじゃん。自分で期限を設けて、返事するって決めたんだから。頑張ってるよ」

「うん」

金井は松本の励ましに頷く。

「ありがとう。でもさ、ここからが問題なのよ」

「結婚に踏み切るか、別れるか、でしょ?」

松本は來美が頼んだ味付けキャベツを箸で取って、味付けキャベツを口に放り込んだ。

「え?そんな単純な話だっけ?」

金井は疑問を投げかける。

「え、違ったっけ?」

疑問が來美に流れる。

「私は、結婚しないまま恋人みたいな関係を保てたらなとは思ってるけど、それを彼に言うのも気が引ける」

來美はムスッと唇をすぼめて、ぽつぽつと本音を語る。

「彼に嫌われたくないから言えないと」

金井は吐息を纏った声で神妙に言葉をついた。


「それもあるけど、そんなの関係ないよって彼が受け入れてくれることを期待してて、その期待が叶わなかったら、また恋できるのかなとか、考えてもしょうがない不安がどんどん期待を奪ってくるのよ。

そんで期待と不安が堂々巡りしちゃって、仕事してない時間が辛くなっちゃう」

「1人でいると考えちゃうよね」

松本はしんみりと呟く。

「2人は今の彼氏と結婚しようって思ってるの?」

「突然来たね」

金井は面食らった様子で微笑する。

「参考までに聞かせて」

來美は前のめりになって、真剣な顔で言った。

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