第12話 結婚したら世界は変わる

「いいなー!私もそういうの味わってみたい!」

 山本は身をよじって楽しそうに悩んでいる。

「安心感ってのがいいですよね。1人暮らしを味わってるから余計に感じるようになりますよ」

山本に追い打ちをかけるように白い歯を見せて言う花須いずな。結婚2年の若手社員。外国の血を受け継いでいる目鼻立ちがくっきりとしたクウォーター。

凛とした美しさがあり、縫製所へ赴く際には必ず彼女を連れていく。男性受けがいいので、すんなり話がうまく行きやすいのだ。


「結婚したら価値観変わるって聞いたんですけど、どうですか?」

山本は前のめりになって食いついている。

「変わるよ~。価値観なんてあっという間にね。夫が一番になって、自分は後回し。それでちょっとオシャレには鈍感になったけど、幸せだよ」

花須はのろけ全開で語る。少し癪に障るが、来美は気持ちも多少分かると思って邪悪な心を収めた。


「子供ができたらもっと変わるよ。夫と子供が遊んでる姿を見てふと幸せを感じるし、子供達が喧嘩したら泣きながら私のところに必ず来るの」

鮫島はしみじみと語る。

「くお~~~!いいですねぇー!守ってあげたくなりますねぇ!ねぇ、社長!」

「いろんな意味でごちそうさま」

「それ嫌味ですかぁ?」

花須は冗談ぽく言う。

「違うわよ」

「社長は彼氏さんと結婚の話にならないんですか?」

来るかもしれないとは思っていた。こうも自然に来られると胸がざわつく。

「まあ、多少は」

来美は歯切れの悪い様子で山本の問いに答える。

「じゃあ後は準備じゃないですかぁ。結婚式には私達も呼んで下さいね」

鮫島の言葉に花須と山本が深く頷く。

「うん」

来美はコップの水に手を伸ばし、口に注いだ。

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