類は友を呼ぶ?
第5話 披露
3日後。ブライダルファッションの披露会が都内にある多目的ホールで行われている。ブライダルファッションを取り扱う13の企業が参加するファッションショー。来美の経営する【フロンティアドレッサー】と他の企業との合同企画で行われていた。
一般客やメディアを招き、自社のドレスをアピールするチャンス。世間への周知が不足している企業にとって、こういう場は有効に活用したいはずだ。
集客は上々。ランウェイを歩くモデルにスポットライトが浴びせられ、企業の様々なドレスや白無垢がお披露目されている。ファッション誌で有名なモデルやタレントにも参加してもらったお陰で反応もいい。その代わり、なかなかの出費になってしまった。
元を取れるかどうかは今後の売れ行き次第。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
1時間半のファッションショーは無事に終わった。
関わっていただいた関係者の方々への謝辞を終え、衣装の運び出しだけになり、少しだけ息つける時間。来美はエントランスホールの椅子で少しゆっくりしようと、近くの自動販売機で買った温かいコーヒーを飲む。
「盛況は上々のようですねぇ」
隣のテーブル席についていた男を視界に捉えた。こちらに視線が向いている。
「ありがとうございます」
男は短髪で老け顔。口周りに髭を生やしている。
顔に覚えはなかったが、関係者だと思ってお礼を言う。
「結婚をボロクソ言ってた女が、ブライダルファッションをやってるとは」
来美は目を
自分の結婚の価値観を知っているのは親しい友人だけだった。面識のない男が知るはずはない。
「なんなんですか?あなた」
来美は嫌悪感を交えて聞く。
「違う会場で講演会してたんだよ。そしたら偶然、あの居酒屋でやさぐれた女をみかけて、ちょっと覗いたらドレスのファッションショーやってるし、近くの人に聞いたら、その女がブライダルファッションの女社長っくっ!笑いを堪えるのに必死だった」
男は口を隠しているが、目がもう笑っている。
「私が何をしてようがどうでもよくないですか!?」
「ああ、どうでもいい。ただ笑えたっていう感想を言いに来ただけだから」
「言いに来なくて結構です」
来美は冷たく言い放つ。
「来美さん、準備できました」
来美の会社の従業員が報告に来た。
「んじゃ、俺は行くから、せいぜい頑張って」
馬鹿にしたような激励を投げ、男は去っていく。
「お知り合いですか?」
従業員はおずおずと聞いた。
「あぁ、近くの会場で講演会やってた人。今日初めて会っただけだから」
「そうなんですか」
「行きましょう」
「はい」
女性従業員と来美は裏口へと向かう。
その間、通路では多くの人が行き交い、会場の片づけや次の会場準備に追われている光景が入ってくる。
キャスター付きの看板を持った作業員が追い越していく。その看板に『生物としての人間とは 生物学教授 鷹野喜代彦』と書かれていた。
来美はその看板を睨みつけながら見送った。
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