第3話 女子会
12月31日。1年の納め時とあって酔っぱらいが増殖している。忘年会と称した宴が、頻繁に行われているこの時期。こういう時くらい、好きなことをさせてほしい。
来美は自宅の駐車場に愛車を置き、そのまま歩いて行きつけの居酒屋へ寄った。高校の時から付き合いのある2人の友達と、忘年会とは名ばかりの女子会を決行していた。
3人とも29歳独身。でも、彼氏はいるから大丈夫と余裕げな女子3人は、テーブルに並んでいた酒に合う肴を平らげていく。
そして、ビールをグイッと飲み、だらしない吐息を漏らす。
「やっぱビールは美味いわ」
来美は前のめりになってしみじみと呟く。
「いけるねー!」
黒髪のミディアムストレートから覗く愛くるしい表情は、ただ単に童顔というわけではなく、大人の雰囲気がしっかりと感じられた。
「今年ももう終わるのかぁ。早いなー」
来美は哀愁を纏った言葉を零す。
「1年が経ったっていう実感ないよね」
金井は前髪をぱっつんと切り揃えており、気の強さが顔に出ているように見えて、意外と優しい一面を持っている。とっつきにくそうな見た目と優しい性格のギャップに惚れる女子は数知れず。それを間近で感じ取ってきた来美は、金井のことを羨ましく思った時期もあった。
「ほんとそうよ。私達こんなに頑張ってるのにさ、時間短過ぎだよね。もっと寿命欲しいわ」
来美はそう言って、野菜スティックを食べる。
「私はそんなに寿命いらないわ」
松本は苦笑いを浮かべながら言う。
「ええ??なんで?」
来美は理解に苦しむと言いたげに聞く。
「おばちゃんを延長して生きていく自信がない」
「整形でもすればいいじゃん」
「かっる~。なに、六本木のママ?」
「来美さん来美さん、今日から占い師に転職ですか?」
金井はニヤけながら野菜スティックをマイクにして質問する。
「誰が占い師だ!」
来美は金井の手を軽くはたいてツッコむ。
「あさしんとほっぴーも来てほしかったね」
松本は淡々と残念がる。
「仕方ないよ。結婚して仕事してたら友達と飲みに行く時間なんてなくなるでしょ」
金井は枝豆をつまむ。
「結婚したからって飲みにくらい行けるでしょ」
来美は不服そうな顔でぼやく。
「そりゃ好きな人との結婚生活を楽しみたいって思うじゃない。ああ、私結婚したんだぁ!って」
松本は乙女チックに言う。
来美は納得いかない様子で続ける。
「あさしんは新婚だから分かるよ?でも、ほっぴーは新婚じゃないのになんで飲みに来れないのかさっぱりなんだけど」
「仕事が忙しいんでしょ」
金井は素っ気なく言う。
「やっぱり大人になると疎遠になっちゃうのかぁ」
来美は寂しげに呟く。
「一年の最後の日くらい好きな人といさせてあげなよ~」
松本は慰めるように来美の小皿に塩焼きそばを盛ってあげる。来美は松本の言い分も一理あると思い、ふてくされながら塩焼きそばに手をつける。
「だから結婚って嫌なのよねぇ」
「出たー!結婚毛嫌い過ぎでしょ」
「自分の家に他人のルールが入ってきてそれに縛られる生活とか、ないわ」
来美は吐き捨てるように言って、塩焼きそばを食べる。
「愛されてる証拠でしょ。あっちは相手のことを思って言ってるんだからさ」
「愛されてる?縛ることで愛を分かつなんて、SMプレイじゃあるまいし」
「まあ、くるみーはSだもんね」
「真顔で言うなし」
来美は真実味を帯びた口調で言う金井にツッコむ。
「でも、くるみーはいつか彼氏と結婚するんでしょ?」
松本にド直球の質問を投げかけられ、来美は放心状態になる。
「どうしたの?」
金井は心配そうな顔で問いかける。松本も表情から笑顔が消え、来美の返答を待った。
「私、プロポーズされた」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます