ことあるごとに、おれの胸を過った、先輩。


 苦しい時も悲しい時も、また逆の感情が胸を過る瞬間に先輩が脳裏を掠める。


 だからずっと、おれは先輩のことを忘れなかった。

 忘れ、られなかった。


 高二の時点で先輩の姿はおれの前から影も形も見えなくなってしまったけれど、それでも忘れられないほど、憧れ続けた。



 どんなピンチの時でも笑顔で投げ抜き、勝っても負けてもチームメートを励ますことを忘れなかった先輩。


 明るく快活で、頭の回転が早く、チームの輪が乱れかけるといの一番に口を開き、荒波立つ前に鎮めることができた先輩。


 人の輪にいても輝けず、内に籠りがちだったおれにも声をかけ、優しくしてくれた、先輩。



 そんな先輩が突然、おれの会社に『中途採用』者として、現れた時…


 どれだけおれが驚いていたか、きっと先輩は、想像していなかったと思う。


(それが、三ヶ月前、か)


 別会社から引き抜かれてきた先輩を、別部署の部長に紹介された瞬間、昔と違ってお互い坊主頭ではなかったけれど、おれは一目でその人が『先輩』だと分かった。


 おれは高校後半になって背が伸び、対面した先輩を幾分見下ろすような背丈になってしまっていたけれど、名刺を取り出し名乗ると、


『…お前か!』


 と、すっかり容姿が変わってしまったおれを見て驚きながらも、思い出してくれたことが、嬉しかった。




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