おれは、そんな先輩の後を追って、部活を辞めてしまいたかった。


 先輩の傍にいて、前と同じようにボールを投げられなくなってしまった先輩に寄り添い、その傷ついた心を、癒したかった。


 同じ、野球を愛する者として。

 その想いを共有することで心を通わせ、再び先輩の心を、輝かせたかった。


 何よりおれが、先輩の一番傍にいられる存在に…なりたかった。



 だけどおれは、そうすることを選ばなかった。



 おれは先輩の隣に寄り添える親でも兄弟でもなく、まして、恋人になり得る女でもなかったから。



 ーー先輩の一番傍にいられる存在には、どう逆立ちしたってなれない。



 親にはなれない。


 兄弟にだって、なれない。


 おれは男だから、恋人にだって、なれない…


 そう繰り返し思うことで冷静さを取り戻したおれは、三年間、レギュラーとしてグランドへ上がり汗を流すことはできなかったけれど、最後まで野球部員としての活動をやり遂げることに集中した。


 憧れる気持ちが強すぎて、時には息苦しさを覚えたほどの想いから少しでも目を逸らすためだったけれど、二歳差は大きく、その頃にはもう、地元に先輩の姿は見えなくなってしまっていた。



 それでもその当時の経験は、社会人となったおれのことを、今でも支え続けてくれている。



 どんなことがあっても途中で挫折したりせず、己れの信念を貫く。



 先輩には成し遂げられなかったことの意思を継ぐという意味合いもかねて取り組んだ部活動での経験は、大人と言われる年齢になったおれの根幹となり、社会の荒波に飲まれそうになりかけても、決して溺れることなく、過ごしてこられた。




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