ラブソング【BOYS LOVE】

由希乃 穂波

 思いもかけない出来事なんて、きっとこの世の中、ごまんとあると思う。



 事実、自分も数多のあくたと同じで、著名なメディアにその名が乗るようなことなんて、なに一つありはしない。



 だけど…



 そんな自分にも、その世の中がひっくり返ってしまうほどの大きな出来事が、この数ヵ月の間で、立て続けに起こっていた。


(…)


 緩慢な運転は良くないと分かっていても、ついぼんやりと考え事に耽ってしまう。


 時刻は17時を少し過ぎた頃。

 カーラジオからは、あの人ーー先輩と、よく話題にしていたプログラムの始まりを知らせる、番組専用のステッカーが流れ出していた。


「ーー…」


 先輩とは、高校に入学して知り合った。

 部活を通じて初めて先輩と出会ってからずっと、憧れの対象として彼のことを見ていた。


 二つ年上の、先輩。

 入部した野球部ではキャプテンだった先輩に対し、レギュラー争いから落ちマネージャー紛いの雑務しかさせてもらえなかったおれからすれば、先輩はまるで雲の上のような存在で、自分から声をかけることなんて、できない人だった。



 それ、なのに。



『お前は偉いよ。 人が嫌がりそうな小さなことにも気がつくと、それを誰に押しつけるでもなく、自分でやっちゃうんだから』


 …泥に汚れたボールのメンテナンス、グランド整備に使う道具の管理など、女子マネにはできないことをフォローしつつ、淡々と片づけをしていたおれに話しかけて励ましてくれた先輩の笑顔を、おれは今でも鮮明に覚えていた。


 でも、そんな先輩の優しい態度は、何もおれに限ったことじゃなかった。


 先輩は、仲間想いで後輩にも気遣いのできる、優秀な人で。


 キャプテンという責任を果たすことにも全力で向き合い、その気持ちが強すぎたせいで肩を痛めてしまったほどで…


 三年の夏が来る前に、

『部の士気を下げるかもしれないから』

 という理由で、自分のしくじりを責め、愛していた野球から、潔いほど呆気なく遠ざかって行ってしまった人でもあった。




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