ゴミ処理場

草鳥

ゴミ処理場


 私の親友、加奈は見るからに落ち込んでいる。

 真っ赤な目にいっぱい涙を溜めたまま、私の制服の袖を指先でつまむ。

 放課後ちょっと付き合って、と言われて喫茶店に引っ張ってこられたのがついさっき。私はいいよとかまだ言ってないのに。仕方ない奴だ。


「あのね、」


 そう言って加奈は口をつぐみ、嗚咽をこらえる。

 さっきからこれの繰り返しだ。口を開いたら泣いてしまいそうになるんだろう。人前で号泣するのはさすがに恥ずかしいか。


「ゆっくりでいいよ。話してみ、聞くから」


 こう言ってやらねば話が進まない。正直言って話したい内容に心当たりはあるのだが、こちらから言っても動揺させるだけだろう。

 その言葉に少し落ち着いたのか、長く息をつき、加奈は満を辞して口を開く。


「あのね、せんぱいに、ふられたの」


「……そっか」


 最近、加奈はよくその先輩のことを話に出していた。部活の先輩らしい。口ぶりから明らかな行為が伝わってきたので「好きなの?」と聞くと、可愛らしく頬を赤らめてためらいがちに「うん」と。


 その先輩――何と言ったか、ユーヤだかユートだかよく覚えていない――は、加奈いわく「とてもやさしくて親切に指導してくれる」のだそうだ。私も最初見たときは爽やかなイケメンといった印象を受けた。

 遠目から二人のやり取りをみても仲が良く、先輩の方からも加奈に好意を向けているように思えた。


 そして昨日。加奈がキラキラした顔で「明日せんぱいに告白するの!」と言ってきた。輝かしい未来に瞳を瞬かせ、好きな人との「これから」を語る加奈に私は付き合ってやった。

 付き合ったらこんなことがしたい、あんなとこに行きたい、キスとかはまだ緊張するから無理、などなど――楽しそうにそんな話をしていた加奈は、今。

 ひどく泣きそうな顔で俯いている。昨日の輝きはもうどこにもない。

 そんなこの子を見ているとどうしようもなく胸が痛む。


「さっきね、呼び出して、で、せんぱいのことが好きです、付き合ってくださいって言ったら、ね」


 時折しゃくりあげながらつっかえつっかえ話す。加奈はいつでも一生懸命だ。こんな時でも。

 そんなところが私は大好きだ。


「他に好きな人がいるからって……私ね、それでもう、どうしたらいいのかわかんなくなって逃げてきちゃったの……」


「それで私のとこまで走ってきたの」


 こくり、とうなずく。頬を伝う涙には見て見ぬふりをして背中をさすってやる。


「元気出しなよ。加奈にはきっともっといい人がいるからさ」


 ありがとね、と加奈はつぶやく。


「振られたときはほんとに悲しくて、真っ白になって無我夢中で……気が付いたら君のところにいたの」


 ごしごし、と手の甲で涙を拭う。加奈の顔には笑顔が浮かんでいた。


「いつもこうやって話聞いてくれてありがとうね。励ましてくれてありがとう。私、あなたが友達でほんとに良かった」


「……恥ずかしいっての」


 本当に恥ずかしい。私も加奈が友達でよかった、なんて口が裂けても言えない。

 べし、とおでこを軽く叩いてやると「なんでよー!?」とぷんすか怒り出す。

 よかった、少しは元気になったみたいだ。そうしている方が加奈らしい。



 それにしても――そうか、あいつ、振ったのか。



 それでいい。

 私がちょっと誘惑したくらいで鞍替えするような奴に加奈はふさわしくない。

 この子に寄って来るゴミは私がことごとく処理する。これからもずっと、私が加奈を守るんだ。


 とりあえずあの先輩は――加奈を泣かせた仕返しに、弄ぶだけ弄んだ後、再起不能になるほど手酷く捨ててやろう。

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