友達ってなんだ
草鳥
友達ってなんだ
「誰にでも優しいって人、いるじゃない」
「いるね」
電車の揺れを感じながら、隣に座る友人の話に相槌を適当に打つ。
「私たちのクラスにもいるわね」
「いるね」
夕方だからか、車内には人がひしめき合っている。すごく息苦しい。やめてほしい。
二人そろって座れたのはラッキーだったなあ、とぼんやり思う。
「でもその人、私に対してはあんまり好意的に接してくれないのよ。こう、常に口元が引きつってる感じというか」
「あんたが常時仏頂面だからじゃないの」
「え?」
「え?」
顔を見合わせる。
友人は、何言ってんだこいつ、と言わんばかりに顔をこちらに向けてくる。まあ無表情なのだが。
私もきっと、何言ってんだこいつ、みたいな顔をしているだろう。
「私、仏頂面かしら」
「常にね」
補足しておく。こいつ自覚がなかったのか。態度が淡々としすぎてクラスメイトに地蔵だとか呼ばれてるのは黙っておこう。
なんで私はいつもこんなやつと一緒にいるんだろう、と心の中で首をひねる。
「あんたさ、友達いるの」
「いるわよ」
「嘘つけ」
こいつが誰かと仲睦まじく話しているところなど見たことがない。
いつもこいつのことを見ている私にはわかる。
「あなたよ」
「なにが?」
何が私なのか。こいつの言うことはいつもよくわからん。
「友達。あなた」
「おお……」
「え、違ったかしら」
「うーん」
どうなんだろう。確かに私はこいつとだいたい一緒にいるが、友達と言えるのだろうか?
私はこいつと違ってクラスに話す相手もそれなりにいる。でもその子たちが友達かと言うと、うーん?
わからない。友達ってなんだ。
「まあ、客観的に見ると友達なのではないかと……」
「そうじゃなくて」
ずいっ、と顔を近づけてくる。近い近い近い。
まじまじと見てみると、いつもの鉄面皮に少しだけ朱がさしているように見える。
やっぱりこいつの顔は好きだなあ、などと関係のないことに意識が飛ぶ。
「あなた自身が私のことをどう思っているか聞きたいわ」
「どうって……」
「好き?」
好きって。
好きって!
確かにさっきこいつの顔が好きだとは思ったけど。
でもそれ以外となると微妙だ。
まあ嫌いではないのは確かだ。私は嫌いな奴と好き好んで一緒にいるほど人間ができちゃいない。
じゃあ好きかと言われると……どうだろう。今日みたいにいつも意味わからん話をしてくるし、いつもそれに付き合わされるし。ぶっちゃけ勘弁してほしい、とよく思っている。
でも。
嫌じゃないんだよなあ。
例えば顔だちだったり、仕草だったり、声だったり、言葉の選び方だったり。よくわかんない話の内容も含めて、こいつの好きなところを挙げればキリがないんだけど。
あれ?
ああ、なんだ。
私こいつのこと好きなんじゃん。
馬鹿だな私も。これくらいのことにつらつら考え込まないと気付けないなんて。
「そうだね、少なくともこうやって一緒にいるのは嫌いじゃないかな」
まあ、それを素直に言ってやるかどうかはまた別の話なんだけどね。
なんか癪だし。
「そ。まあ、今はそれでいいわ」
ふい、と友人は視線を前に戻す。
すこし残念そうな、でもほっとしたような雰囲気を出している。
うん。私たちの関係はこれでいい。
そこそこ近くて、くっつきすぎない。離れもしない。
ぬるいお風呂みたいなこの感じが心地いい。
この距離感を維持して行こう。
――――今はね。
友達ってなんだ 草鳥 @k637742
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます