学校できもだめしをしたときのこと 中編

 最後のスタンプは六年生の女子トイレの中に置かれていました。

 私たちの学校は、偶数学年と奇数学年で校舎が別れていました。

 学年が上がると上の階に上がるため、五、六年生は三階建て校舎の一番上に教室がありました。

 そのため、私たちは六年生のところには、まず行くことがありませんでした。

 

 校舎の両側に階段があり、そこにトイレがありました。

 入り口に近い南側が男子トイレ、奥の北側が女子トイレです。

 基本的にその学年の階にあるトイレしか使いません。

 私たちは六年生のトイレを使ったことがありませんでした。


 この校舎の入り口で、男子の一人が口を開きました。

「地図では二年生の廊下を真っ直ぐ行くことになってるけど、そんなことしたら先生達の思うつぼ。こっちの階段を上って六年生の廊下を行こう」

 男子三人はうなずき合い、勝手に階段を上り始めました。

「そんなことしたら、先生に怒られるよ!」

 保守的な女子達は男子を止めようとしましたが、置いて行かれてはたまりません。

 仕方がなく後を追いかけました。


 当たり前ですが、順路からそれた私たちを驚かす仕掛けは全くありませんでした。

 それでも、女子達は手をつなぎ、男子の背中に隠れながら歩きました。

 窓から差し込む満月の明かりは、とても気持ち悪く感じました。


「あれ、防火扉が閉まってる」

 先頭を歩いていた男子が声を上げました。

 階段とトイレの空間と、廊下との境に防火扉があったのです。

 その扉が閉じられていました。

「やられた……」

 そうです。

 不正をしないよう、防火扉を閉めて順路以外通れないようにしていたのです。

「仕方がないから引き返さない?」

「いや、そんなことしたら負けだ」

 私たちの提案に、男子は同意しません。

 勝ち負けではないので、ここは戻ってほしいと思ったのは、私だけではなかったと思っています。

 そう、ここで引き返していれば何も起こらなかったのですから。


 気がつくと、男子達は防火扉を開けようとしていました。

 しかし、扉は重くビクともしませんでした。

「防火扉ってこんなに重かったかなぁ……」

「反対側で先生が押さえてるんじゃない?」

 何気なく言った私の一言に、男子達のやる気に火を付けてしまいました。

「先生に負けてられるか! そうだ! こっちの小さい方を開けようぜ」

 防火扉にはくぐり戸、いわゆる小さい扉が付いていました。

 ここを開けようというのです。

「よいしょ!」

 男子三人が大きなカブのように、扉を引いています。

「がんばれ~!」

 その姿に、なぜだか私たちも応援しました。

 最初はくぐり戸もビクともしませんでした。

 そのうち、ゆっくりと動き始めました。

 手応えを感じたのか、男子達は綱引きのように声を上げ、扉を引く手に力を込めていました。

 私たちもその姿に、手に汗を握っていました。

「開いた!」

 男子達の頑張りで、くぐり戸は人が通れる十分な隙間ができました。

「すごーい! がんばったね!」

 私たちは、男子達の頑張りに拍手をしました。


「開いたはいいけど、手を離すと一気に閉まりそう……」

 男子達の腕を見ると、ぷるぷると震えいています。

 とても重い扉だと感じました。

 私たちはどうしたらいいわからず、その場から動けません。

「女子でスタンプを押してきてよ。さすがに女子トイレは入りにくいから」

 ごもっともです。

 通常、女子トイレに入った男子は袋です。

 でも今日は特別なイベントです。

 男子が入っても許してくれるはずです。

 仕方がないとはいえ……仕方がないですね。


「どうしようか……」

「私たちで行く?」

「怖いの嫌……」


「早くして!」

 一番先頭の男子が声を上げ、私たちははっとしました。

「……行こっか」

 私たちは扉を引いている男子に手を振って、扉をくぐりました。

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