面白い反面、宗教学を学ぶ者として耳の痛い現実に満ちていると思いました。描写も、表現も、物語も非常に素晴らしくまとめられている。故にその痛々しさが生々しいと感じました
宗教は火と同じで、うまく使えば闇を照らす道具となり、闇から社会を救い、秩序をもたらすことができる——しかし、未熟な人間にうまく使いこなすことなどできはずもなく、火事や火器の類いは絶えない。その現状の一例が、この主人公の悲しい遭遇事故や、その周囲の人に起きているのではと思いました。
これは個人的な話になるのですが、宗教学を学んでいると、この主人公のようなカルトの被害者たちの存在を否が応でも知ることになります。場合によってはそれら対面し、救えないもどかしさから「自分は何を学んできたんだろう」と唇を噛むこともあります。(それ自体が傲慢なのかもしれませんが)
その時の救えなかったカルトの被害者と、救えるはずの知識を学んだはずなのに動けない自分というもどかしさを、「物語の登場人物」と「それを外から読む読者」という関係性で再体験しました。