死体キャバクラのVIP会員特典
ちびまるフォイ
死体の管理はつい忘れがち
会社で話を聞いた死体キャバクラに行ってみた。
「この店で1番人気の花子ちゃんでーーす。
享年25歳です」
隣の席に死体が座らされた。
青白い肌と華奢な体からは想像もつかないグラマラス体型。
顔もジャストミートで俺好み。
「あ、あのっ、ここここ、こんにちは」
「……」
「お、俺こういう店はじめてどう言ったらいいか……」
『緊張しなくていいわ。リラックスして。
ここは楽しくお酒を飲んでおしゃべりする場所よ』
「え!? 声が聞こえた!」
俺の反応にスタッフはにこりと微笑む。
「死体ちゃんたちはしゃべりません。
ですが、あなたは彼女たちと心の中で会話することができるんですよ」
「心の中……」
『ええ、私はあなたの想像の中でしかおしゃべりできないけど
あなたと過ごせるこの時間がとっても幸せだわ』
「花子ちゃん……!」
一夜にして数十万ふっ飛んだが、値段に見合うだけの時間を過ごせた。
人生をどんなに圧縮してもここまで充実した時間はないだろう。
翌日、会社でこの感動を後輩に伝えた。
「死体キャバねぇ……つか、それって先輩の脳内でしか会話してないんっすよね」
「そこがいいんじゃないか!!
相手の心ない言動にイラつくこともない!
言ってほしいことを言ってくれる、最高の女性だよ!」
「そんなとこ通ってると嫁さんに怒られますよ?」
「かまうものか! 俺は会社を休んででも死体キャバクラに行く!」
「いやそのやる気を仕事に……」
後輩からは飽きられたが俺は毎日死体キャバクラに通った。
しだいに花子ちゃんとの仲も縮まって、今では恋人以上の関係になった。
「花子ちゃん……俺は君が好きだ」
『うふふ、知ってた。それじゃ私の気持ちもわかる?』
「君の気持ち……?」
『このにぶちんさん。ほら、耳を近づけて』
俺は死体を自分の耳に近づけた。
『私も ダ・イ・ス・キ 』
耳が沸騰して溶けだすんじゃないかというくらい顔が熱くなった。
こんなに相思相愛の純愛劇がほかにあるだろうか。
「お客様、今回のお支払いで……」
ふいにスタッフがやってきたので一気に現実へ戻った。
「な、なんですか!? お金はちゃんと払ってますよ!?」
「はい、ですからお客様はVIPに昇格しました」
「VIP? 特別な部屋とか使えるんですか?」
「いえ、そうではないです。ただ一定量以上お金を使うと死体をアフターがご利用いただけます」
「なんだって!?」
アフター、すなわちお持ち帰り。
ここでのアフターは死体を自分のものにできるということ。
「俺の家に……花子ちゃんが……!!」
毎朝起きると枕元に花子ちゃんが横たわっている。
これ以上に最高な日常はない。
「がんばります!!!!!」
俺はアフター目指してますます死体キャバクラにのめり込んだ。
「先輩、最近めっちゃ残業してますね。家帰らなくて大丈夫ですか?」
「そんなことよりキャバクラだ!!!」
「先輩怖いっす……」
連日連夜の努力のかいあって、ついに一定金額を超えた。
「おめでとうございます。使用金額が一定額を超えましたので
死体ちゃんのアフターがご利用いただけます。誰にしますか?
ただし、アフターできるのは1人まで――」
「花子ちゃんで!!!」
迷わず答えた。
花子ちゃんをお姫様だっこして家に持って帰る。
そこからは毎日が幸せの絶頂だった。
『あなた、起きて』
「ああ、おはよう」
『今日もお仕事がんばってね』
「もちろんだよ。花子が家にいると思うと今日もがんばれる。
今日は早く帰ってくるからいっぱいおしゃべりしようね」
『うふふ、楽しみにしてる』
「ああああ!! もう可愛いなぁ!!!」
抱きしめてキス連打をしていると、インターホンが鳴った。
こんな朝早くに誰だろうか。
ピンポンピンポンピンポーーン。
「はい。なんでしょうか?」
「警察です」
「けけけけけけ、警察ぅ!? どうして!?」
がくがくと膝が震えた。
どうして警察というのはこんなにも威圧的なのか。
「実は近所の人から通報があって、あなたの部屋から変なにおいが……うっ」
「変なにおい?」
警察官が鼻を抑えているが、俺にはなんの違和感もない。
「この部屋から死体のにおいがするとあったんですよ……。
というか、今もしてますね」
「あっ!! わかった!」
においの原因は死体だろう。
防腐処理をし忘れていたのと、この暑い時期なので匂いが出たんだ。
「すみません死体キャバクラから死体をアフターしたんですが、
防腐処理をし忘れていたので匂いが出てしまってました、すみません」
「ああ、そういうことですか。どっちも気を付けてくださいね」
「はい、すぐに防腐処理をしておきます」
警察が帰るとすぐに死体に防腐処理をしておいた。
近くで過ごしていると匂いになじんで気付かなかった。
どちらにも防腐処理をしてもう匂いが出ないことをちゃんと確認した。
「うん。これでばっちりだ」
※ ※ ※
通報先の確認が終わった警察官はパトカーで署に戻っていた。
「あの、部長。さっきの家なんですけど……」
「なんだ? 死体には防腐処理すると約束したから大丈夫だろう。
まだなにかあるのか?」
「あの家、どうして女の死体が2つあったんですか?
死体キャバクラでアフターできるのは1人まででしたよね……?」
死体キャバクラのVIP会員特典 ちびまるフォイ @firestorage
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