第56話メトロノーム

あれからまた雅昭さんとのメッセージを続ける事決めた。


例えこれが許されない恋だとしても…。


会いたい…雅昭さんに会いたい…。


あたしはまた、雅昭さんを求めた。


しばらくして雅昭さんからメッセージが来た。


『俺も会いたいよ舞由香』


「雅昭さん…嬉しい」


そして次のメッセージが来た。


『君の声が聞きたい』


「雅昭さん…」


『私も雅昭さんの声が聞きたいです…』


あたしの名前呼んでほしい…。


あの優しい声で…


近くで、側で聞きたい。


その時、次のメッセージが来た。


『メッセージだけだと、気付かない時もあるから

メアドとケー番教えとくね』


『嬉しい…』


そしてメアドとケー番が添付されてDMが来た。


あたしも自分のを添付した。


その時


♪♪♪


あたしのスマホの音楽が鳴った。


「誰だろ?こんな時間に」


画面には知らない番号が映し出されていた。


あたしは電話に出た。


『…もしもし?』


『あ、出てくれた』


「雅昭さん!?」


「久しぶりだね、舞由香』


初めて聞く雅昭さんの声…。


電話だと少し低いんだ…。


『雅昭さん…』


その声を聞くだけで、あのときに戻った気分だった。


『ふふ、どうしたんですか?』


『教えてくれたから早速掛けてみた』


(嬉しい…)


側にいてくれたみたいだった。


『元気にしてる?』


『はい…。雅昭さんは?今日も仕事ですか?』


『そう、今日は残業、目痛いよー』


『大変ですね、ちゃんと休んで下さいね?』


『ありがとう…』


声を聞いただけなのに、胸がギュッと締め付けられ


涙が出そうになる。


『…会…いたいです…雅昭さん』


声を聞くだけじゃもの足りない…。


側で感じたい…。


あたしの目からは涙の粒が落ちた。


『…俺も会いたいよ。近くで君を感じたい…。でも今声が聞けるだけでも俺は嬉しいよ』


『…雅昭さん』


その言葉を聞いて、あたしは少し元気が出た。


そしてそれからあたし達はいろんな話をした。


会社の事…


学校の事…


テレビの事…


他愛もない話をたくさんした。


その時、雅昭さんが口を開いた。


『舞由香…11月2日空いてる?』


『2日ですか?空いてますよ。どうしてですか?』


『…実は11月、一度そっちに戻るんだ。

舞由香さえ良ければ会わない?』


『はい!』


(やったあー!)


『良かった、じゃあ、一緒に散歩したあの公園で待ち合わせしよう、16時でも大丈夫?』


『はい!大丈夫です!』


『良かったーじゃあ会おう。また連絡する』


『はい!』


そしてあたし達は電話を切った。


あたしは、電話を切った後、早速スケジュールアプリを開いた。


そして11月2日の欄に【デート】と書かれたスタンプをつけた。


そのスタンプをつけた後に何度もニヤニヤしてしまった。


「早く会いたいなあ〜♡」


1ヶ月も先なのに、まだかまだかとあたしはジタバタしていた。


【デート】のスタンプをつけたのなんて久しぶりだった。


前までは…


涼汰とデートをしていて、ついていたのが当たり前だったから…。


その時あたしは前までの予定表のページをペラペラとめくった。


【4月2日涼汰とお花見デート】


【5月8日涼汰と映画デート】


涼汰の名前を見るたびに泣きそうになった…。


今のあたしには、辛いだけなのに


あたしの指は全然止まってくれなかった…。


「涼汰…」


あたしは信じてたよ?


涼汰は絶対戻ってくるって…。


だけど涼汰は戻って来なかった…。


涼汰…


それが答えなんだよね…?


それなのに、あたしはまだ


涼汰がまた戻ってくると信じてしまう…。


別れた方が良いに決まってる…。


世間は誰もがそう思う…。


あたしだってその方が良いに決まってる。


分かってる…


分かってるのに


あたしはまだ涼汰を切れない…。


その時、LINEが鳴った。


開くと新堂さんからだった。


『いきなり電話してごめんね。

色々話せて楽しかった(^^)

おやすみ。ゆっくり休んでね(^^)』


雅昭さんはあたしを安心させてくれる。


癒やしてくれる。


あたしにとってオアシスだ。


涼汰みたいにぶっきらぼうじゃないし…


涼汰みたいに短文じゃないし…。


ちゃんとあたしに対して、気を使ってくれる


大人な男性だ。


涼汰とは全然違う…


素敵な…。


やめよう…。


涼汰と雅昭さんを比べるのは…。


…失礼だ。


それなのにあたしは、涼汰と雅昭さん


二人に対しての気持ちがまるで"メトロノーム"の針ように


ゆらゆら動いてる。


最低だ。


雅昭さんを選ぶなら、涼汰と別れないといけないのに


あたしはゆらゆらふらふらケリもつけず


止める訳でもなくずっと振動させ自分で自分を苦しめてる。


でも今のあたしは、雅昭さんに気持ちは傾いている。


あたしは、雅昭さんを選んだ。



だから…。



失ったんだ。



友達も…彼も…。



傾いていけない方に針を傾けてしまったんだ…。
















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秘密の糸 南山阿須那 @asuvu

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