第55話宝箱

涼汰が浮気相手とちゃんと話し合って終わらせてくると言ってくれた。


あたしも、新堂さんと切ることを決めた。


そしてこれからは、涼汰の側にいると決めた。


涼汰からの連絡を待っている間に、あたしは新堂さんに最後のメッセージを打っていた。


時計を見ると、既に21時を回っていた。


けど一向に涼汰からの連絡はなかった。


電話をしても、出なかった。


「涼汰、何してんだろ?話長引いてるのかな?」


LINEを送っても、既読にもならない。


あたしはまた、電話を掛けた。


プルルル


その時、涼汰が電話に出た。


『…はい』


『涼汰、今何してるの?』


『………』


涼汰の様子がおかしい。


『…涼汰?』


『…舞由香』


いつもと違う、涼汰の声。


『…ごめん』


『…え?何が?』


『俺、やっぱりあいつの事見捨てられない』


『え?』


突然言われた事に対してあたしは訳が分からなかった。


『どうゆうこと…? 切れないってこと…?』


『…ごめん』


何で?何でなの?


『何で?』


『それは…』


『約束してくれたじゃん!これからはあたしの側にいるって!涼汰が言ったんじゃん!』


『…ごめん』


涼汰の声がだんだん低くなる。


『…今彼女が大変な目にあってて…』


『大変な目にって何?』


『………それは』


『答えてよ!』


『…ごめん、けど今は言えない…』


『…妊娠じゃないよね?』


『…違う』


『じゃあ何で言ってくれないの?』


あたしら不安になりどんどん涼汰を責めてしまった。


『落ち着いたらちゃんと話すから』


だんだんと怒りが込み上げてきた。


『何それ!意味分かんないよ!

あたしよりその子が大事なの!?

あの日言ってくれた言葉は何だったの!?』


『ごめん…本当にごめん…!』


『もういい!』


ツーツーツー


ひどいよ…涼汰…。


あたし達…またいちからやり直せると思ってたのに…


どうして…涼汰?


あたしよりその子が大事なの…?


あの日誓いあったのは何だったの…?


あたしの頭の中は疑問だらけだった。


そして目から、涙が零れ落ちた。


「うっ…ひっく…ひっく…」


涙を拭こうと、鞄からハンカチを取り出したその時、


鞄の中で、何かが光った。


それは…

新堂さんと関係を持ってしまった時の、


…あのブレスレットだった。


「あ…これ」


ずっと…捨てないといけないと思ってた。


一度寝ただけでも、関係を持ってしまったのは事実だ。


…だから忘れる為にも…捨てなきゃいけない。


いけないのに…。


なのにあたしは…ずっと鞄の中で入れたままだった。


二度と…触れないようにしていた。


でも、そのブレスレットを見てしまった瞬間、


「…もう一度…新堂さんに会いたい…」


そう思ってしまった。


あの手に触れたい。


身体に触れたい。


初めてされたあのキスを…


もう一度…


ダメだと分かってる…。


だけど今のあたしはどうしようもなくあの人を欲しがってる…。


結ばれなくても良い…。


ただ…会いたい。


「雅昭さん…」


あたしは打っていた別れのメッセージを全て消した。


そして


『雅昭さん、会いたいです』


とそれだけ打ってDMを送った。


そしてブレスレットをぎゅっと握りしめた。


…もう一度…だけ会いたい…。


あの日の思い出を全部


新堂さんという大切な人の存在を


あたしは


大切な物をしまい込む


"宝箱"のように


ずっと、大事に大事にしまい込んでいた。


でも涼汰と約束をしたあの日、


あたしはその"宝箱"を二度と開けないよう


鍵をかけた。


決して…


もう二度と…開けないように


封印をするように…。


あの日を最後にして…


でも


あたしはまた自分で自らその宝箱の"鍵"を開けた。


そしてあたしは、また新堂さんとの繋がりを続けた。


だから…


あのあと悲惨な真実を知った。


そしてその真実が、


もうすぐ知るとも知らずに…


あたしはただ、新堂さんとの関係をまた続けた…。










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