第54話同罪
「ふーん…そうですか」
そう言って東藤さんは、私の両手首を掴み壁に押し当てた。
強く掴まれた手首がビクリともしない。
(…痛い!)
「あなたもバカですね、まあ僕にとっては好都合ですけど」
ビリ
そう言って東藤さんは、私の着ていたカーディガンを破った。
ブチブチ
その瞬間ボタンが外れた。
「!?」
「クスクス、良いですよあなたのその怯える目…僕の好みだ」
(ヤダ…怖い!)
その時
「やめろ!」
遠くから声がした。
東藤さんはびっくりして、走って逃げてしまった。
「あ、ま、待って!」
追いかけようとしたその時にはもう、
東藤さんの姿はなかった。
「大丈夫か!…っ!美菜!」
「涼汰君…」
ポタ…
安心したのか、私の目から涙が落ちてきた。
涼汰君は全身汗だくで、息を切らしていた。
「お前…それ…ちょっと待て」
そう言って涼汰君は着ていたアウターを脱ぎ、そっと私に掛けてくれた。
「どうして…?」
私達は終わった筈なのに…
「あんな電話来たら焦るだろ!」
「電話…?」
「…お前、俺に掛けてきただろ?」
私が…?涼汰君に…?
私は確認する為、バッグからスマホを取り出した。
発信履歴を見ると、確かに涼汰君に電話を掛けていた。
「どうして…?あ、もしかしてあの時…」
涼汰君と別れた後、連絡先を消そうとした。
その時突然、東藤さんに肩を掴まれた。
あの時びっくりして、間違って通話ボタンを押してしまったんだ…。
「…ごめんなさい。間違って掛けてた…。」
「はー…。焦った…声しないから…。…何もされてないか?」
私はコクリと頷いた。
「良かった…。ごめん…俺のせいで」
「どうして涼汰君が謝るの?」
「俺がちゃんと送れば、こんな事にならなかったのに…」
「違うよ…。これは…私の罰なの」
「罰…?」
「涼汰君、私ね、最近ずっとつけられてたの…」
「え?」
「カフェを出た後、本当は家の前につけられてた事、写真を送られてきた事…全部話そうと思った…。
でも、もう涼汰君に迷惑かけちゃいけないと思って話さなかった…。
それなのに…私…また涼汰君に迷惑かけてしまって…
本当にごめんなさい…」
もう二度と、迷惑をかけない…。
そう決めたのに
私はまた、涼汰君に迷惑をかけた…。
「…美菜が無事ならそれで良い。だから自分を責めんな。」
最後まで、本当に優しいんだね…。
「…ありがとう」
「つけられてたって…あいつにか?」
涼汰君は勘が良かった。
「…うん」
「…あいつお見合いの時にいた奴だよな…?何で今更…。」
「…私達がさっきカフェで話していた時、東藤さんもあのカフェにいたの…。私をずっとつけてたみたいで…。
涼汰君の事、バレてしまったの…。本当に…ごめんなさい…。」
ポロポロと涙が溢れ落ちた。
私はどこまで涼汰君に迷惑をかけてしまったのだろう…。
改めて自分のした全ての事が、掘り返される。
「ごめん!俺のせいで…」
違う…。涼汰君は私を助けてくれただけ。
涼汰君が責める事なんてない。
「…謝らないで。元々は私のせいでこうなってしまったから…。」
そう…
全ては私から始まった…。
「涼汰君も巻き込んでしまって…本当自業自得だよね…。」
謝って済む事じゃない…。
でも今の私には、ただただ謝る事しか出来ない…。
「美菜…」
「私があの時、きちんとお見合いしていればこんな事にならなかったのに…本当にごめんなさい…。」
「違う!俺が元々、父親に話してみろなんて勝手にアドバイスして…
結果美菜と新堂さんを別れさせて…
全部俺のせいだ!本当にごめん!」
あの時、涼汰君にアドバイスを貰えて嬉しかった。
だから私は、一歩前に進める事が出来た。
涼汰君のおかげなんだよ…?
「涼汰君…私ね、…涼汰君には本当に感謝してるの」
「え?」
「私、いつもお父様の言われたことは全部守ってきた。
今まで意見なんて、言ったことなかった。
ずっと…怖かった…。お父様に意見をするのが…」
あの冷酷な…血も通ってない…
あの…氷のような冷たい目を背けられるのがずっと…
ずっと…
怖かった…。
「美菜…」
「そんな時、涼汰君が私にアドバイスをして背中を押してくれた。
新堂さんと別れる事にはなってしまったけど、
でも私、お父様に初めて意見をした事後悔していないの。
だから…責めないで?ね?」
「美菜。」
「私は大丈夫、元々は全て私が撒いた種だから。
涼汰君はちゃんと彼女の元に帰って。
もう、これ以上涼汰君には迷惑かけられないから…
ここからは私が一人で立ち向かうから。」
涼汰君が戻ってきて嬉しかった。
だけどこれは、私が撒いた種。
撒いた種をここから回収するのは私。
その時、涼汰君が口を開いた。
「嫌だ」
「…え?」
そして涼汰君は包みこむように私を抱きしめた。
「…涼汰君?」
「無理して笑うなよ…」
「え?」
「…俺も同罪だ。美菜をあの場所から連れ去ったんだ。
そこから俺達は関係を持ったんだ。
…今更、見てみぬフリなんか出来ねーよ」
「…っでも!」
「…俺は、今のお前をほっとけない」
「……」
「…俺が守る。」
「…え?」
「…もう二度と、美菜を一人で苦しめたりなんてしない…」
「涼汰君…」
私はまた涙を溢した…。
「…ずっと一人で苦しめてて…ごめん…」
涼汰君のその優しい言葉に、
私は涙をどんどん流した。
今日で、私達の関係は終わると思っていた。
だけど私達は、一度関係を持ってしまっている。
その真実だけは消せない。
一度でも関係を持ったのだから…
罪は罪だ。
"同罪"なんだ…。
これから私達は一緒にこの罪を背負わないといけない…。
例え、この先何があろうとも…。
そして、私はまた、2回目の罰を受けることになる…。
罪を背負うとは…そういう事なんだ…。
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