第4話 北東の門
ティルダスはチグラスに言われた通り、ダエンとともに北東の門へ向かって駆け出した。
北東の門は日頃使われておらず、『開かずの門』と呼ばれている。
雑草が鬱蒼と生い茂り、灌木だらけだった。
雑草や朽ちた灌木に足をとられ、全く前へは進まない。
やっとの思いで門の近くまでたどり着くと、
男が2人話をしていた。
ティルダスは足を止め、ダエンに合図をしてその場に屈み、聞き耳を立てた。
男の一人がブチブチと不平を口にしている。
「兄貴ィ、オイラいつまでこんなとこにいなきゃなんないンすかね?寒いっすよー!」
年の頃20代半ばと思われるその男は貧相で、
緑色した門番服を着込み震えていた。
「ティルダス王子が現れるまでだ!」
兄貴と呼ばれた男は不機嫌そうに答えた。
こちらの男は先程の貧相な男とはうってかわって、ずんぐりとした体格だった。
——やっぱり俺を待ち伏せていたか!——
ティルダスは、とりあえずしばらくそこでじっとうずくまっていた。
やがて良いアイデアが浮かび、ダエンに耳打ちをした。
『え?わかったよ、やってみる…』
二人の少年はふたてにわかれ、それぞれ少し戻った場所から塀をよじ登り、それぞれの門番のいるほうへ近づいた。
門番同士の間は約2メートル、貧相なほうへはダエンが近づき、ずんぐりしたほうへはティルダスが近づいた。
ティルダスの合図で、二人の門番の頭の上に大きな石が落とされた。
石は見事に命中し、門番はその場でのびてしまった。
2人の少年は塀から飛び降りた後に門から抜けて、全速力で駆け出した。
「なんでチグラスの言うとおり塀から外へ飛び降りなかったのさー!」
走りながらダエンはティルダスに訊いた。
「門番気絶させてるから、塀から降りる必要ないだろ?それによー、塀から飛び降りたらさー、どーしたって音立てちゃうだろ?ヤツらに気づかれちゃうぜ!」
答えながらティルダスは、脇目も振り返らずに走り続ける。
「なるほどー!気づかれて捕まっちゃうの、ヤダもんなー!ところでまだなの?酒場?」
「さあな!それらしき建物、まだ見えて来ないよな!」
と、その時…。
「待て~っっっ!」
後ろから追いかけてくる者があった。
例の門番たちだった。
「うわっ、あいつら来たよ!」
ダエンの走るスピードが上がる。
「もう意識戻ったのかよ、
ティルダスは一瞬だけ振り向き、自分を追ってくる2人の門番の姿をみとめると、さらに走る速度をあげた。
「むわてぇぇぇ~っっっ!!!」
門番2人、凄い形相で追いかけてくる。
「待てって言われて待つヤツいるかよー!」
ティルダスは笑いながら走り続けていたが、
正直もう息があがって体が限界近くまできていた。
——やっべぇ!このままだと捕まるかも、どうしよう……あ、そうだ!——
ティルダスは、右手側に見えてきた馬小屋へと駆け込んだ。
続けてダエンも駆け込んだ。
「どうすんだよ!?こんなとこ入ったら、袋のネズミだろ?!どーかしちゃったの?!こんなんじゃすぐヤツらに捕まっちまうって!!」
ダエンは息を切らせながら、ティルダスを責め立てた。
「まあまあ、落ち着けよ、ダエン…コレだよ」
ティルダスは桶いっぱいに入った馬糞を見せ、ニヤッと笑った。
「あ、なるほどね」
ダエンもつられてニヤリ。
「ダエン、君は馬に乗って待ってくれ!俺がヤツらに馬糞ブチまけたら、すぐ俺のこと引き上げてくれ!」
「合点!」
やがて門番2人近くまで来ると、ティルダスは2人にめがけ、桶の中身をブチまけた。
「うわーっ!何だコレ!?」
「くっせー!」
ティルダスは高笑いしながら、ダエンに馬上に引き上げられて、その場を後にした。
ナハペトの王座 帆高亜希 @Azul-spring
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