青春と恋愛ゲーム
雨ノ雫
青春の味
四月上旬、桜が少し散り始めるこの時期。新学期が始まり、誰もが期待と希望を、持っている時である。しかし、一人の男子校生だけは違った。
「失敗したな」
俺はつい、その言葉を口にしてしまう。言ってしまうと余計、虚しくなるが言わずにはいられなかった。
学校の帰り道。
駅のホームには、学生でいっぱいになる。他の学生も俺と同じ帰宅部なのだろうか。あるいは、単に今日は部活がないだけなのか。だが、どの学生も青春を謳歌しているのだけは分かる。なんだ、その自分はリア充ですとアピールするような顔つき。一人の俺をバカにしているのか、それとも、元からそういう顔つきなのか。
忌々しいリア充ども、早く滅びろ!
よく、こんなことを口にする主人公がいるが、結局のところ主人公も最後は青春を謳歌し、最後はヒロインとハッピーエンドというオチが待っているのだ。
しかし、俺は主人公とは違う。青春なんてものを謳歌することはできない。いや、しないと言った方がかっこいいだろう。なぜ、俺が青春を謳歌できないかって、いや、間違えた。しないかって。
「それは俺が男子校だからだよ!」
おっと。つい、声に出してしまった。となりのJKが舌打ちをする。謝る俺。独り言の癖、直さないとな。
この心の叫びを聞いてもらったとおり、俺は男子校に通う、男子高校生。
名前を向井理だ。ちなみに俳優の方と漢字がいっしょである。俳優の向井さんは、俺とは違い。イケメンで人柄も良さそうで、背も高い。対して、俺はキノコ頭で人柄も悪く、背も低い。自分で言っていて、虚しくなる。まぁそこは、この際どうでもいい。
問題は、俺が男子校だということ。その一点に尽きる。これを聞いて、理解してもらえただろうか。
俺は青春を謳歌しない。
男子校でも、青春を謳歌しているやつはいるが、それもごく少数。選ばれし者以外、無理なのだ。そりゃ、俺だって言い訳に聞こえると言われたら、それまで。だが、どうか聞いてほしい。
高一の俺は、受験に失敗はしたがどうにか私立の男子校に入ることができ、高校生活を楽しみにしていた。男子校だけど、高校生だから青春の一つや二つあると思っていた。男子校だ・け・ど。だが、現実は厳しかった。
美人な女教師がいると思いきや、――おばさんしかいない。そもそも、女の先生は二人しかいない。なぜなんだ!?
きっと女子高との交流があるのだろう。と思いきや、そんなことはなく。女子高のじょの字すら出てこない。なぜ……なんだ!?
先生すらも、明らかに女子という言葉を避ける様子。新人の先生が女子という言葉を言ってしまった時なんて、やってしまったという顔する。いや、女子って全然、言っていいから。別に禁句なわけじゃないから。
終いには、先日の学年集会で高二の俺たちに学年主任が言う。
「そろそろ、受験を意識する時だ。そこで私から君たちに言いたいことがある。それは、一つ。女子との交流は諦めろ」
おい! なんで今まで禁句だったことをなんで急に解放するの!? 受験だからって、俺たちに希望も持たせてくれないのか。青春なんて、恋愛だけじゃないと言うやつもいるが、それは嘘だ。仲間との絆だの、友情だのは恋愛に勝てない。(帰宅部の俺の見解)
なぜなら、人間は恋愛をするために生まれてきた生き物なのだから。
これを、浅い考えと言うやつを俺は知っているが、そいつは変人なので放っておく。みんなだって、恋愛がしたいはずなのに嘘をついて生きている。そこの恋愛に興味ないとか言ってるやつ、どうなんだ? ――結論、恋愛がしたい。
十分遅れの電車がやっと来る。はぁー、どこかに出会いがないのだろうか。出会いがないなら、中学の人と連絡を取れと言ってくるやつもいる。だが、中学の頃は暗黒時代だったので連絡を取る相手もいない。今、俺のLINEには友達が三人しかいない。一人は母。後の二人は、俺の数少ない友達。一言でいうなら、残念イケメンとガリ勉メガネだ。
今日もまた大型のゲームセンターに寄るため、一つ前の駅で降りた。なぜ、一つ前で降りるのか、それは俺がいつも降りる駅にはゲームセンターなどの商業施設が全くないからである。
最近、俺はクレーンゲームにハマっている。好きな理由として何か挙げるとしたら、クレーンゲームには夢が詰まっているからだ。百円、または二百円でより高い価値のある物を手にいれられるなんて、まさに夢のようなゲームである。
クレーンゲームのコツは、三つある。
一つ目は、アームの開きを確認すること。これは、よく聞くことだと思うのだが、実はこれがかなり重要だ。人によってはアームの爪も気にするが、正直、俺はアームの開きが良ければだいだいの物は取れる。
二つ目は、景品の位置をしっかりと店員さんに直させること。これが一番、大変である。なぜなら、店員さんに話しかけなればならないからだ。ぼっちな俺は、それが苦痛で仕方がなかったが。何度も言うことによって、顔を認識させ、今では無言でやってくれる。本当、店員さんにマジ感謝。
三つ目は、色々な景品を取ること。お菓子やキーホルダー、フィギュアなどの景品は、どれも取り方が違い。経験のために取ることもある。だが、一番の理由は、取った時の喜びを忘れないためである。
さて、今日は何を取るかな。俺はそんなことを考えてながら、景品を見定めていたところに天敵が来た。
「うわ、また来てるよ。
げっ、最悪だ。この生意気そうな声はガキ達だ。おそらく小学5、6年生で、いつも二人組でなぜか俺に絡んでくる。名前は知らない。
「げっ、本当だ。また、俺たちの邪魔しに来たのかよ。」
それは、コッチのセリフだわ。ちなみに、主というのは俺のことらしい。なんかカッコいいので、許している。ダメだ。こいつらに反応したら、思うつぼだ。ここは、無視しよう。
「ねぇ、主。今日も何か景品とるの?」
「バカ、お前。今日は俺が取るんだから、
いや、お前もさっき話しかけてたけど、それはアリなのか? まぁ、黙っていれば大丈夫だろう。よし、決めた。今日は、フィギュアでも取るか。金って、どれくらいあるっけ? …………死んだ。まさか、残金が二百円しかないなんて。俺が狙うフィギュアの一回、二百円。ギリギリだな。今日はこれ取って、家に帰るか。そういえば、ガキ達の方はどうなんだ?
「よし、やった! いける、いける。もう少し」
どうやら、巨大ペヤング焼きそばを狙っているらしい。お前たち、本当にそんな物がほしいのかよ。最近の小学生は、謎だな。
その時、アームから景品が落ちる。
「あ、あー。もう少しだったのに、おしかったね」
「くそ! あと、少しなのに」
クレーンゲームでは、よくあることの一つだ。ただ、いつ見ても人が失敗してるのを見るのは気持ちのいいものじゃないな。
「どうする? もう一度やる?」
「当たり前だ。ここで逃げたなら、男じゃないからな」
お前、こんなクレーンゲームに男を賭けるのかよ。将来が不安だな。だが、俺も人の心配はしてられない。早く、フィギュアを取って帰ろう。
その時、腕をだれかに掴まれる。そこに、視線をやるとさっきのガキたちだった。
「え!?」
つい、声を出てしまった。
「ねぇー、主。待ってよー」
「おい、ちょっと待て。お前たちさっきのプレイはどうしたんだ?」
「俺が……間違えてボタンを押して、終わっちゃった」
ん!? あ、そうか。そうか。よくあるやつアレね。――ってなわけねーだろ!
何してんだよ! ふつう、間違えてボタンを押すか? ……いや、こいつらならあり得そう気がする。日々のこいつらを見ていたら、納得してしまった。
「そうか、それは残念だったな。じゃあ、俺は帰るから」
「いて。 何だよ?」
「主、あれ取って!」
「お願いだよ。あんたならあれぐらい簡単に取れるだろ。頼むよー」
本当、つくづく虫のいいやつらだな。なぜ、俺が焼きそばなんてものを取らなければいけないのか。なぜか、顔を手で隠しながら涙ぐんでいるのだが……。いや、よく見てみると、口が少しにやけているのが分かる。はぁー、まったく本当にバカなやつらだ。演技をするなら口元も隠せよ。
「お願い、主。あれ、いっしょに食べようよ」
「頼むよ。あんたが取ってくれたら、一口あげるから」
さて、どうする? てか、取っても一口しかもらえないかよ。焼きそばのクレーンゲームの値段は二百円。ここで逃げるのは簡単だが、やってみるもいいかもしれない。
「あ、もう……わかったよ。その代わり、三分の一もらうからな」
「本当? やったー!」
「さすが、主。男前!」
「じゃあ、二百円あげるから入れてきてくれ」
「うん、わかった」
「おう、任せとけ」
* * *
無事に景品を取ることができ、ゲームセンター前のベンチで俺たちは焼きそばを食べている。
「主、これおいしいね!」
ああ、たしかにうまい。
「本当、主は相変わらず、すごいな!」
そりゃ、どうも。
だが、一つ叫ばせてくれ。
「なんで、俺、うまい棒を食べているんだよ!!」
「主、少しうるさい」
「もう少し静かにしろよ」
「……はい」
誰が予想できただろうか。俺が今、うまい棒(焼きそば味)を食べていることに。いや、誰も予想できないだろう。まさか、このガキたちがここまで異次元の思考回路を持っているとは。どうやら、こいつらに聞いてみると最初はペヤングが欲しかったらしいが、お湯がないことに気づき、うまい棒にしたらしい。ここに来て、まさか正当な理由とはな。
「なんていうか、青春の味だね!」
「たしかにそうだな。主もそう思う?」
そのセリフをうまい棒で言えるお前たちが羨ましいよ。ちなみに俺はペヤングで言いたかった。
そして、俺は、ふと思う。
これもまた、青春を謳歌しているかもしれないな。
青春と恋愛ゲーム 雨ノ雫 @namonakihito
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